来年3月に迫ったロシア大統領選では再選間違いなしと言われながらも、それまでの間にウクライナ問題を少しでも進展させたいという思いからなのか。
米NYタイムズ紙は23日、プーチン大統領が「条件付きで停戦交渉に応じる用意がある」とする記事を大々的に報じた。情報元はロシア大統領府関係者、並びにアメリカの外交官だというが、記事によれば、プーチン氏はロシアが現在占領しているウクライナ東部や南部の地域を“現状維持”することを条件に、停戦交渉に応じる用意があると伝えている。
「実は米国情報筋の間では、今年に入ってからロシア側がこの条件をもとに何度か西側にシグナルを送っていたようで、当初は断固として譲らなかった“ゼレンスキー政権の退陣”を要求しないという譲歩も見せていたとのこと。ただし、ウクライナ側は全ての領土奪還でなければ納得するはずもなく、さらにプーチン氏のことですから、いつ前言を翻すかもわからない。西側も、懐疑的に見ているようです」(国際ジャーナリスト)
報道の真意はともあれ、仮にロシア軍が占領している地域から撤退せず留まることができれば、ロシア国内で戦争勝利を印象付けられるだろう。
また、このタイミングでプーチン氏の「停戦に前向きな姿勢」が明らかになったのは、米国の来年の大統領選も無関係ではない。
「ゼレンスキー氏は19日の会見で『アメリカは我々を裏切らない』と米国の支援継続を強く求めたものの、米議会はウクライナへの追加支援予算について、民主・共和両党の審議継続中のため採決を年明けまで持ち越すとしました。共和党はこれ以上の支援に反対しており、また仮に、来年の大統領選でトランプ氏が再選した場合、間違いなくウクライナ支援は大幅に削られるかストップするはずです。つまり今回の報道は、それを見越したロシア側が、ゼレンスキー氏に助け舟を出すふりをして圧力をかけたるために、あえてリークしたという見立てもあるのです」(同)
実際19日の会見でゼレンスキー氏も、大統領選でトランプ氏が勝利すれば、「確実に異なる政策を行うことになる」と見て、ロシアによるウクライナ侵攻の様相が一変する可能性について言及、深刻さを募らせた。
「米国内には今でも、バイデン大統領が米軍をアフガニスタンから撤退させたこと、あるいはウクライナ問題に対し早々に軍事介入をしないと宣言をしたことで、『弱いアメリカ』がプーチンの増長を招いたという指摘がある。あるいは大統領がトランプだったなら、この戦争も起きなかったという説を唱える人も相変わらずいます」(同)
魑魅魍魎たちの思惑が絡まる停戦交渉だとしても、人命が救われる可能性があるのなら一刻も早く実現することを願うばかりだ。
(灯倫太郎)