自民党の最大派閥「清和政策研究会」(安倍派)の政治資金パーティー問題は、安倍晋三元首相が所属議員への裏金還流(キックバック)を中止するよう指示していたにもかかわらず、安倍派幹部らが方針を撤回し、従来通り還流を続けていたことが最大の焦点となりつつある。だが、大手メディアは肝心の、安倍元首相が中止を指示した「事実」をスルーしている。
例えば朝日新聞は12月23日付朝刊の特ダネで、安倍派が還流を取りやめる方針をいったん決めながら、約4カ月後に撤回され、従来通りキックバックを続けていたことがわかった、と報じた。ところが「安倍元首相の指示」とは書かず、「安倍派の会長や事務総長ら中枢幹部が」とするにとどまった。
これについて、安倍元首相と近かった阿比留瑠比産経新聞論説委員は「X」に、「安倍派会長と匿名にする意図は?安倍さんがやめさせたと書きたくないのだろうが、読者をバカにしていないか」と疑問を投げかけた。
朝日新聞の記事で安倍元首相の名前が出てくるのは本文で、「安倍氏は2022年の派閥パーティーを5月に控えた同年4月、還流の取りやめを提案した」「派閥の実務を取り仕切る事務総長だった西村康稔・前経済産業相らが協議して還流なしの方針が決まり、各議員に周知されたという」とある。ここでも「指示」とは書かず、「提案」となっている。実際には、安倍元首相は西村氏を呼びつけ、還流をやめるよう強く指示したことが関係者の証言で明らかになっているにも関わらずだ。
安倍元首相は同年7月に凶弾に斃れ、その後は朝日新聞が書いたように「最終的に4月の方針は撤回され、従来通りの裏金としての還流が9月にかけて実施された」のだった。
元NHK職員で言論サイト「アゴラ」研究所所長の池田信夫氏も「X」に「安倍さんがやめた裏金を、彼の死後に高木事務総長が復活。これを『安倍派の犯罪』と呼ぶのは、安倍さんがかわいそうだ」と投稿している。
責任の所在は明確になりつつある。安倍元首相の指示を覆し、還流を続ける方針を決めた会議に誰が出席していたかだ。少しでも良心があるなら、出席者は名乗り出て、安倍元首相の汚名を晴らすべきであろう。
(喜多長夫/政治ジャーナリスト)