“ドン底”中国経済はなぜ「潰れそうで潰れない」のか

「なぜ、中国経済は潰れそうで潰れないのか?」
 
 世界で今、多くの人が疑問に思っているテーマだろう。
 
 中国経済の“牽引車”だった不動産開発に異変が起きたのは2021年7月のこと。業界第2位の「恒大集団」が米ドル債の利払いが不能となり、全国で抗議デモが巻き起こった。これに世界の投資家たちは衝撃を受けた。

 それから2年後の今年8月、恒大集団は2兆4400億元(約49兆円)の負債を抱え、米国で連邦破産法15条を申請。さらには、中国最大の不動産会社「碧桂園」も社債の償還に追われる経営危機に陥っていることが表面化した。不動産バブルの破綻が中国全土を襲い、地滑り的な経済崩壊が始まっていることの現れだろう。
 
 中国で不動産開発がGDP(国民総生産)に占める割合は、約30%とかなり高い。習近平が先端産業強国を打ち出して構造改革に向かっているとはいえ、不動産への依存度は大きく、これが壊滅すれば中国経済に想像を絶するほどの打撃を与えることは間違いない。
 
 なのに日本のメデイアは、中国当局の発表のまま、「不動産の買い手は投資目的の富裕層だから社会問題にはならない」という説明を鵜呑みにしている。
 
 だが実態は、不動産を買っているのはバブルに乗り遅れた低収入層が多くを占め、このまま不動産が破綻すれば、1000万人以上が路頭に迷い、餓死者さえ出るとも言われている。不動産会社が破綻したあとも、購入者は借金返済に追い立てられるからだ。
 
 しかも、いま中国は、経済成長の武器だった「豊富で安い人材」の時代が終わり、少子高齢化の時代に突入している。こうした悪条件が重なって、世界の投資家たちは「中国経済が破綻する」と見ているのだ。
 
 ところが、不思議なことに習近平は現下の不況を心配している様子はない。それはなぜか。ざっくりと説明しよう。
 
 不動産バブルの扉を開いたのは1993年に最高指導者となった江沢民の時代である。その後、国家主席を引き継いだ胡錦涛の時代と合わせて20年間の政治で、中国は一気に豊かになった。
 
 1978年からの改革解放で、共産党は国が丸抱えしていた「衣食住」を個人に任せたが、住宅購入が本格的に始まったのは1990年代。中国が「世界の工場」に向かう中で、江沢民政府が住宅の私有化を促したからだ。
 
 そして、リーマン・ショック(2008年)で世界経済が大混乱している最中、胡錦涛政権は4兆元(約55兆円)の大規模公共投資を実施し、高速道路、高速鉄道、空港、ダム、住宅などを次々に建設し、経済を大きく成長させた。
 
 だが、急速な経済成長の反面、未曽有の不良債権を生んだ。
 
 ここにメスを入れたのが習近平である。胡錦涛時代から不良債権は問題化しており、この処理に失敗したら政権が一気に傾くことを、胡の後を引き継ぐ前から習近平はわかっていた。

 2012年、共産党トップへの就任が決まると、さっそく江沢民・胡錦涛時代に膨らんだ不良債権対策に手を打った。不良債権の解消命令を金融機関と地方政府に出す一方で、金融関係の規律を次々に改正していった。
 
 2020年、バブル崩壊の軟着陸を狙って「三道紅線(レッドライン)」という不動産融資制限策を打ち出した。これは融資対象企業の条件を厳格化するもので、①自己資本比率は30%以上、②資本金は負債より大きい、③現金÷有利子負債=1以下に、という指針が定められた。

 この“劇薬”が効き、恒大集団は一気に危機的状況に追い込まれたのである。

 この3つのレッドラインの施行とほぼ同時に、4大国有銀行をはじめ19の国有銀行自身にも自己資本比率の改善が命じられ、その後、自己資本比率15〜19%を実現している(ちなみに日本の大手銀行の自己資本比率は15〜18%)。

 しかも、不動産関連の融資割合は全体の6%以下だというから、仮に不動産バブルが弾けても金融機関は十分に耐えられる、という。これが「潰れそうで潰れない」カラクリである。
 
 とはいえ、中国経済が今後、破綻スレスレの試練が続いていくことは確実だ。

(団勇人/ジャーナリスト)

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