ロシア探査機が月面衝突!「宇宙開発戦争」でもまさかの大苦戦

 旧ソビエト時代の1976年に打ち上げられた「ルナ24号」からおよそ半世紀の時を経た今月11日、ロシア宇宙開発の威信をかけて打ち上げられた無人月面探査機「ルナ25号」が20日、月面に衝突し、消失したことが明らかになった。

 ロシアの宇宙開発公社「ロスコスモス」の発表によれば、探査機は月周回軌道に到達。順調にいけば21日には月の南極付近に着陸予定だったが、19日に通信が途絶えてしまったことから、月面に激突した可能性が極めて高いという。

「今回の計画では南極付近に着陸し、月の資源を中心に1年に渡り調査するとしていました。折しも、インドの宇宙研究機関(ISRO)が打ち上げた無人探査機『チャンドラヤーン3号』が月面着陸を目指し飛行中で、着陸に向け最終的な軌道変更に入ったことを発表したタイミングでした。こちらが成功すれば、インドに一歩出し抜かれることになり、ソ連時代以来の『宇宙大国』と呼ばれた権威に傷がつくことになる。つまり、ロシアは今回の失敗で、コストとプライドの両面で大きな痛手を受けてしまったことになります」(ロシアウォッチャー)

 第2次大戦後、冷戦状態となったアメリカと旧ソビエトは、宇宙開発でも激しい覇権争いを繰り広げたが、1957年に旧ソビエトが初の人工衛星を打ち上げ、さらに4年後には初の有人飛行を成功させ、アメリカより一歩リードした。だが、アメリカも1969年7月、アポロ11号で有人月面着陸に成功。その後両者の間では宇宙開発を巡る激しい攻防戦が続いたが、91年のソ連崩壊で開発事業そのものが棚上げされ、同時に莫大なコストがかかる月面探査は次第に国際宇宙ステーション事業へと移行した。

 つまり、ロシアとしては文字通り「宇宙大国」復活をかけた月面探査だったわけだが、とはいえなぜ、ウクライナへの侵攻の最中、大きなリスクを負ってまで今回の計画を実施しなければならなかったのか。宇宙開発問題に詳しいジャーナリストが解説する。

「今回の月面探査における最大の狙いは、ずばり『水』。これまでの調査でも月の南極と北極に氷が存在することは明らかになっていますが、氷=水は酸素分子と水素分子でできているため、電気分解すれば水素ガスと酸素ガスができます。これらを低温で液化すると大型ロケットの燃料になる。月に行くための最大の問題はその莫大なコストにある。つまり、この水をロケット燃料として、月にある資源を“現地調達”し“現地使用”できれば、コストは劇的に下がる。同時に月への旅行や月移住のハードルが下がり、いわば地球の延長にある存在になる可能性もあるということです。そうなれば、国を挙げたビッグビジネスになることは間違いない。だからこそ、ウクライナ戦争後のロシアを見据えた場合、なにがなんでも、この分野でイニシアチブを取る必要があると考えたのではないでしょうか」

 結局はプーチン大統領にとって泣きっ面に蜂になってしまった…。

(灯倫太郎)

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