──今なお続くロシアによるウクライナ侵攻も、食料を巡る問題をさらに悪化させている。
ロシアとウクライナは小麦の一大生産地です。欧米諸国がロシアに対する制裁を強める中、ロシアは輸出規制で揺さぶりをかけています。一方のウクライナでも、戦争の影響で農業生産者が種や肥料を買えず、今年以降の収穫減少が避けられそうにありません。
日本は小麦を主に米国、カナダ、オーストラリアから買っていますが、これらの国には世界中から買い注文が殺到しており、まさに「食料争奪戦」の様相を呈しています。こうした争奪戦の中、日本が「買い負ける」可能性はかなり高い。しかも、食料そのものだけでなく、食料を作るための肥料も争奪の対象となっているのです。
日本は化学肥料の原料となるリン、カリウムについては、ほぼ100%輸入です。尿素についても約96%を輸入に依存しています。リンと尿素は、これまで中国から輸入できました。しかし、その中国では、国内需要の増加に対応して、こうした原料の輸出規制を始めています。
また、日本がカリウム原料の多くを頼ってきたロシアとベラルーシが、ウクライナ戦争の影響で〝敵国〟日本への輸出規制を行っています。この状況が続けば、今後の調達の見通しが立たなくなってしまうでしょう。
──中国の爆買いによる影響も見逃せない。中国の食料需要は近年、拡大の一途をたどっている。
中国は大豆を約1億トン輸入していますが、日本の大豆輸入量は300万トンにすぎません。中国に比べると「端数」のような数字です。もし中国がもっと大豆を買うと言えば、輸出国は日本のような小規模の輸入国には大豆を売ってくれなくなるかもしれません。今や中国の方が高い価格で大量に買ってくれる。それに比べて日本の「買う力」の低下は著しいのです。
──鈴木教授が前述した小麦を例にとると、すでにインドは輸出を停止している。昨年3月の記録的な熱波によって、小麦の生産量が減少するとの予測を受けてのことだが、その影響でシカゴ市場の小麦価格は、08年の食料危機時の最高値を超えてしまった。結果的にインドの小麦生産が大幅に減少することはなかったが「国内需要を優先する」との理由から輸出禁止は現在も続いているのだ。
鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)東京大学大学院農学生命科学研究科教授。「食料安全保障推進財団」理事長。東京大学農学部卒。農林水産省に15年ほど勤務したあと、学界へ転じる。九州大学農学部助教授、九州大学大学院農学研究院教授などを経て06年9月から現職。
(つづく)