独裁も長くやっていれば綻びが出るというもの。ロシアのプーチン大統領にはウクライナ侵攻後、様々な重病説が持ち上がったが、今度は数少ない盟友のベラルーシ大統領のアレクサンドル・ルカシェンコ(68)に健康不安説が持ち上がった。
「程度問題はともかく、健康状態が優れない様子は見て取れました。まずは5月9日にロシアで対独戦勝記念日の式典が行われて、ルカシェンコ大統領もこれに駆けつけましたが、手には包帯が巻かれ、プーチンら国家首脳が約300メートルの距離を歩いていく中、ルカシェンコだけは車で移動。夕食会も欠席して、早めに帰途についていましたからね」(国際部記者)
すると今度は、自国ベラルーシで14日に開催された「国旗・国章・国歌の日」の記念式典も欠席。94年に政権を掌握してから「欧州で最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコが、この式典に欠席したのは初めてのことだ。
予想されているのは心臓疾患。冠状動脈迂回手術を受けたとも報道され、病状は極めて深刻との見方もあった。
だが翌15日、ベラルーシ大統領府は、ルカシェンコがベラルーシ空軍・防空軍の中央司令部を訪れたと発表。もちろん狙いは健康不安説を払拭するためだが、ルカシェンコは空軍司令官の報告に「長い説明は不要だ」と、あたかも自らの健康不安の説明とダブらせるようなジョークを放ったという。ただ、この時も左手には包帯が巻かれ「よりやつれた」ような印象も与えた。
ベラルーシは国境からウクライナの首都キーウまでは、距離にしてわずか100キロ。政治的のみならず、地理的にもロシアのウクライナ侵攻の鍵を握るとされる。その国を治める独裁者の健康が危ういとなれば、戦況にも大きな影響を及ぼしかねない。また、今年2月にはクレムリン中枢から「ベラルーシの併合計画」という秘密文書が流出したというのだから非常に厄介だ。
「ルカシェンコ大統領に健康不安説が持ち上がったことで、国際的には“その後”について様々に推測がなされています。仮にルカシェンコが倒れた場合、息子が政権を引き継ぐのか。ルカシェンコは反政府住民を警察力で押さえつけてきたので、世襲となれば国民の反発を招くのは明白でしょう。そこでプーチンが軍を進めて、ベラルーシを統治するという見方まで持ち上がっています」(同)
もともと両国は、ソ連が崩壊した99年に、当時のロシア大統領のボリス・エリツィンとルカシェンコ大統領との間で、連合国家とする条約を結んでいた。この時は経済的にも混乱したロシアが弱い側の立場だったが、プーチンが大統領になるとロシアに吸収すると言い出し、条約が反故になった経緯がある。そして現在は、ロシアがルカシェンコの独裁を後押ししている形なので、立場は完全に逆になっている。だからもともとプーチンの頭の中にあった吸収・併合を前倒しで行うだろうというわけだ。
ウクライナが強力な反転攻勢にいつ出るかいつ出るかと言われている現在。そこにルカシェンコ大統領の健康不安説という不確定要素が加わって、世界はより混とんとするかもしれない。
(猫間滋)