バフムト撤退中止で「ワグネル犯行説」が急浮上!クレムリン「ドローン攻撃事件」の真相

 5月3日未明に、モスクワ・クレムリンへのドローン攻撃を仕掛けた「犯人」を巡り、複数の犯行説が飛び交っている。

 露大統領府の発表によれば、「攻撃してきた」とされるドローンは2機。ネット上に公開された複数の動画によれば、1機目は3日午前2時27分ごろ、ロシア大統領府の建物の真上で「無力化」(露大統領府)され、屋根に落ちて燃え広がった模様。2機目はその16分後の午前2時43分ごろ、同様に大統領府の屋根部分で爆発。隣接する赤の広場では、9日開催の対独戦勝記念パレードの準備が行われていたが、幸い人的被害はなかったという。

「ロシア大統領府はすぐさま『ウクライナのゼレンスキー政権によるテロ行為だ』との声明を発表。しかし、ゼレンスキー大統領は関与を全面的に否定しました。映像で確認する限り、明らかに2機目は翼のついた飛行物体で、爆発後、建物が燃えていないことから、搭載爆発物の量が少なかったとことがわかります。飛行物体は南西方面からモスクワ川を渡り、クレムリンに入ってきたようですが、国外から飛んできたのなら、防空システムがはたらいて途中で撃墜されていたはず。そんなこともあって、プーチン暗殺を狙った義勇部隊による攻撃の可能性や、ロシア政府による自作自演説が浮上してきたというわけです」(軍事ジャーナリスト)

 義勇部隊は昨年8月、プーチンの盟友である思想家の娘が運転する車を爆破した事件で声明を発表。今年3月にサンクトペテルブルクで発生した軍事ブロガー爆破事件でも犯行をほのめかしており、今月1日、2日にロシア西部で起こった列車脱線にも関与した可能性が指摘をされている。

「ただ、この組織がドローンを所持しているのかどうかは現段階では不明です。しかもロシア人であれば、プーチン氏は基本モスクワ郊外の私邸におり、クレムリンの執務室にいる可能性は低いことを知らないはずがない。そこで、政府による自作自演説が浮上したわけですが、たしかにクレムリンに攻撃を仕掛けたとなれば、国際社会に対し強烈なアピールとなりますし、国内向けには『国家のシンボルを攻撃された』として、戦争継続の理由にもなるはずです。しかし大統領府が狙われて一歩間違えば大損害をこうむる可能性もあったわけですから、果たして政府にそこまでやるメリットがあったのか。そこで、一部独立系メディアなどでは『あの人物』の犯行説にまで言及しています」(同)

「あの人物」とは、政府や露正規軍と対立中の民間軍事会社ワグネル代表・プリゴジン氏のことだ。昨年6月から最前線で戦ってきたにも拘らず武器弾薬の供給を止められ、その立場を正規軍に取って代わられようとしているワグネル。プリゴジン氏は「ワグネルが消滅する運命なら、出来損ないの官僚どものせいだ」と、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の名前をあげて批判。今月10日にはバフムトからの撤退も表明していたが、ドローン攻撃後の7日には一転、「必要なすべてのものが配備されることになった」として、戦闘継続を宣言している。

 そこで、同氏が政府や軍部に一泡吹かせるために犯行に及び、それが奏功したという説がまことしやかに語られているが、むろん証拠はないため現状では憶測の域は出ない。ただ犯人は誰であれ、今回のドローン攻撃でプーチン氏の孤立と疑心暗鬼が深まったことは間違いないだろう。今後の行が気になるばかりだ。

(灯倫太郎)

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