昨年9月、ロシア連邦編入協定の調印式を行ったクリミア共和国の首長セルゲイ・アクショーノフ氏。同氏は、2014年のロシアによるクリミア併合の際、クリミア共和国首長代行に任命され、その後首長に就任。2019年までは首相も兼任するなど、クリミア共和国で絶大な権力を維持してきた。
「アクショーノフ氏は、ウクライナ内の自治共和国だったクリミア自治共和国の最高会議議員でしたが、当初から親ロシア派政治家として活動しており、クリミア併合にも積極的に関与してきました。元々ビジネスマンだったようですが、ウクライナメディアの報道によれば、90年代半ばには『セーラム』という犯罪組織に関与し『ゴブリン』のニックネームで呼ばれていたと伝えられるなど、何かといわくつきの人物のようです」(全国紙記者)
そんなアクショーノフ氏が、クリミアで昨年11月に新たな民兵隊を創設。「プーチンの料理人」ことエフゲニー・プリゴジン氏率いるワグネルグループにとって代わるべく、その地位を虎視眈々と狙っていると、フランスの国際ニュース専門チャンネル「フランス24」が伝え、波紋が広がっている。
報道によれば、アクショーノフ氏が設立した民兵隊は「コンボイ」という組織で、その名には「護衛隊」という意味がある。
「ロシアの傭兵といえば、ワグネルグループに代表されるように残酷で汚い戦術もいとわないイメージで悪名を世界に轟かせてきましたが、このコンボイもワグネル同様、戦争に勝利するためには何でもありのようです。しかも、昨年の発足当時は300人規模で始まったものの、その後テレグラムで『ウクライナのサタン主義者』『少数精鋭部隊』といった文言を使って隊員を募集。その数は日に日に増えているとの報道もあります。民兵隊とはいえ、部隊にはロシアの主力戦車T80、T90も保有。さらに電子偵察装備まで備え、隊員らは日々、自動小銃による狙撃訓練に勤しんでいるといいます」(同)
そんなコンボイの総司令官を務めているのが「マザイ」ことコンスタンチン・ピカロフ氏で、同氏はワグネルグループ創設者・プリゴジン氏とも懇意だというのだが、
「ただ、現在ロシア正規軍とプリゴジン氏とが対立していることを考えると、ロシア軍部としては、コンボイに武器弾薬などを供給して組織を強化し、ゆくゆくはワグネルを引きずり降ろす存在にしたいという思惑もあるとみられ、英国防省も定例会見で『ロシアがワグネルグループに代わる民間軍事団体を後援して開発する可能性が高い』と警告しています。実は、チェチェン共和国の首長ラムジャン・カディロフ氏も、コンボイのような民兵隊を持っており、今後、プーチン大統領がこれらの民兵隊を総動員してウクライナに送り込んでくる可能性は十分考えられる。とはいえ、3者が連携して戦えるかは疑問で、逆に三つ巴で意見の対立や争い事が勃発する可能性もあるでしょう。いずれにしろ前線では、さらなる混乱が予想されますね」(同)
正規軍、ワグネル、コンボイ…「フランス24」の取材に対しフランス国際戦略研究所は、「プーチン氏は民兵隊を含むあらゆる手段を動員する点で、日和見主義的権力」と分析しているが、行き当たりばったりとも思えるこの動きに、断末魔の足音が聞こえる。
(灯倫太郎)