ロシアに続いてブラジルも…「人民元」取引増加で揺らぐ「ドル覇権」

 現在もなお、各国の中央銀行の外貨準備高で60%を占め、最も信頼できる通貨として世界的に使用されているのが、言わずと知れたドルだ。しかし、今年3月に中国の習近平主席の仲介により、イランとサウジアラビアが和睦を発表して以来、中東やASEAN、BRICSなどの国々でその流れが変わり始め、中国と提携した「脱ドル現象」が加速している。

「ぶっちゃけ、米国の覇権を支えているのが軍事力とドル。ドルは国際貿易における支払い手段であると同時に、各国の外貨準備高の主軸。なので、ドルが使えない国は現在の国際社会からは逸脱せざるを得ず、経済活動も立ち遅れていました。ところが、先月発表されたブラジル・中国両国による『人民元−レアル』の自国通貨取引の合意で、中国の人民元がドルに代わる国際通貨として存在感をアピールした。というのも、ブラジルは米国の友好国で、そのブラジルが人民元を重要な通貨と位置づけている。今後、中東をはじめASEAN、BRICS加盟国などにも『脱ドル』の流れが加速することは間違いないでしょう」(世界経済に詳しいジャーナリスト)

 国際社会における脱ドルの動きが始まったのは、2014年の対ロシアへの米国主導による制裁だったとされるが、その後、2022年のウクライナ侵攻以降、より顕著となった。

「米国はロシアへの経済制裁手段として、ドル建ての金融取引から排除。しかし、このドルを武器に使った手法が仇となって中東やBRICS各国では、貿易や外貨準備高からドルの割合を減らすなど、ドルへの依存脱却に軸足を置くようになってきた。特にサウジは、2020年2月の時点で保有していた米財務省証券(米国債)1850億ドルを、2022年1月には1190億ドルへと大幅に減少。ウクライナ侵攻開始後の3月には、中国との石油取引を人民元で決済することについて前向きな議論に入っていましたからね。結果、サウジアラビアの動きが中東全体へ広がっていったというわけです」(前出・ジャーナリスト)

 長年にわたり中東諸国において、ある意味、内政干渉を強いてきた米国。だが、アフガン撤退を機にその存在意義が疑問視され、指導力も低下。そのため、中東首脳らから「米国は内政干渉して中東を混乱に陥れただけ」「中国は内政干渉せずに中東各国に安定と経済的メリットをもたらしてくれる」といった声が聞かれるようになった。

 さらに、ウクライナ侵攻により、米国から制裁を受けながらも、中国との取引において経済的にはほぼダメージを受けていないロシアの姿も大きく影響しているとされる。

「ウクライナ侵攻後、ロシアは中国に石油などのエネルギー資源を輸出、中国から工業製品を輸入することで、西側の制裁に抵抗してきましたが、結果、中ロの『人民元−ルーブル』の決済額は、侵攻前の2021年1月の22億人民元から、今年1月には2010億人民元へと約90倍も増えたとされます。つまり、皮肉なことにウクライナ侵攻が、中国人民元の国際化の推進に大きく貢献してしまったとうわけです。となれば、今後はグローバルサウスによる脱ドル加速は避けられないでしょう。米国の覇権を揺るがす一大事がすぐ目の前まで迫っているのかもしれません」(前出・ジャーナリスト)

 さて、習近平の全方位外交で存在感を強める人民元。アメリカによる「ドル覇権」の行方は……。

(灯倫太郎)

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