2月末日で東京の地下鉄、東京メトロの回数券発売が終了した。改札にICカードやスマホなどをかざすと「ピッ!」と音がして、運賃の支払いをするのが当たり前の時代とはいえ、回数券利用者にとっては実質的な値上げだ。
東京メトロの回数券には、いつでも使える「普通回数券」、土日祝日だけに使える「土・休日割引回数券」、そして「時差回数券」といって、平日の午前10時から午後4時まで(土日祝日は時間関係なくOK)使えるものがあった。普通、回数券は10枚の値段で11枚、時差回数券は12枚、土・休日割引回数券に至っては14枚分の乗車券となり、買った日から3カ月間有効。つまり200円区間も普通回数券は約182円、時差なら約167円、土・休日券なら何と約143円という料金で乗れていたことになる。
それが一切なくなってしまった。普通回数券で利用していた人は今後は1割多く運賃を支払うことになる。土・休日券で利用していた人は、一気に40%もの運賃値上げとなるのだ。
この1〜2年で東日本や西日本などのJR、全国の私鉄や民営バス会社などでも次々と回数券を廃止している。2月に回数券を廃止したある鉄道会社は、回数券の利用者が減ったことをその理由にあげているが、コロナ禍でリモートワークが増え、鉄道利用者や国内外の旅行者が壊滅的に減り、各社とも大幅な減収となったことが主たる理由だろう。
それでなくても人口減少で鉄道利用者は減る傾向にある。各社とも将来の減収は見越していたはずだが、それが何年も前倒しで襲ってきて、安く乗れる回数券を利用していた庶民の財布を狙い撃ちにしたのだ。
驚くべきは、こうした値上げをテレビのニュースで取り上げたのを見たことがないこと。夕方のニュースでは、4月から食品の値上げ品目が何千あるなどと騒ぎ立てるが、それはメーカーや官庁などが発表するものを流しているだけ。実勢の小売価格はほとんど調べないし、報道もしない。
賢い庶民は日持ちのする物はセールで買う。販売量も多い。だからセール価格がいくらからいくらになったか、それこそが庶民にとって本当の値上げで、大切な情報でもあるはずだ。しかし、そんな報道はない。
まあ、ボヤいてばかりいても仕方がないので、東京メトロを利用する人に知っておいてほしいお得な情報をひとつ。東京メトロは数年前に一日乗車券、一日乗り放題の乗車券を廃止し、進化させた。日付で区切るのではなく、使用開始から24時間乗り降りが自由にできる「24時間券」としたのだ。
例えば、金曜日の午後5時に最初に利用したとすると、翌日土曜の午後5時まで利用できる。正確に言うと、午後5時までに改札を通ればよく、24時間プラスアルファ有効な乗り放題券なのである。
これから春休みやゴールデンウィークなどで東京に来られる方は、ぜひ覚えておいてほしい。価格は大人600円(小児300円)。つまり、170円の区間なら4回利用したら元が取れる優れものだ。
またJRなら「都区内パス」がある。23区内の普通列車(快速など含む)に1日乗り放題で大人760円(小児380円)だ。
私もこれらの乗車券を時々利用しているが、SuicaやICOCAよりずっと安くなることも多く、どちらも自動販売機で簡単に購入可能。時間があれば、降りたことのない駅でフラッと街ブラするのも楽しみのひとつになっている。
そして新橋や新宿にある金券ショップをのぞきに行くこともある。そこは庶民や企業の〝金の本音〟が見え隠れしていて、本当の経済がわかるからだ。
大きな収入源だった「新幹線の回数券」がなくなっても、たくましく生き残っている金券ショップだが、このところ、少しずつ数を減らしている。庶民の味方の金券ショップの行く末も心配だ。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。著書「素人はボロ儲けを狙うのはおやめなさい安心・安全・確実な投資の教科書」(扶桑社)ほか多数。