リーゼント刑事・秋山博康が激白「一人前の刑事になるためには、この三本柱が必須だ」

 おはようさん! 元リーゼント刑事こと秋山博康です。2021年3月に徳島県警を定年退職してからは、犯罪ジャーナリストとして活動しております。

 今回はまず、ワシが刑事を目指した理由をお話ししようと思います。

 忘れもしない小学校4年生の夏休みのこと。夜中の2時過ぎにトイレへ行きたくなり目覚めると、玄関からガラスが割れる大音が響き、引き戸を開ける音がした。その後、ギシギシと廊下を歩く音が聞こえてきた。

 当時10歳のワシは泥棒が家に入ったとは考えずに、「人殺しがワシの部屋を探しとる‥‥」という想像しかできずに金縛り状態。ブルブルと震えて身動きすらできなかった。

 その恐怖から解放してくれたのが、親父。「誰な!」と一喝すると、泥棒は一目散に逃げていった。

 それでも恐怖心から逃れられないワシの前に現れたのが、親父の110番通報で駆けつけた警察官。

「ボクよ、おっちゃんに任せておけ。必ず逮捕したるから」

 刑事のその一言で恐怖心がすーっと消えた。当時は警察官と刑事の区別すらつかなかったが、「ワシもこのおっちゃんみたいになりたい」という幼心が、刑事を目指す契機になった。

 それでも、当時も今も制服から刑事という私服勤務になるのは狭き門。その苦労は次回以降に話しますが、念願だった刑事になれたにもかかわらず、初心者の頃に大失敗をしまして。

 たぶんワシが、23歳ぐらいの時。初めて取り調べをした相手は、小学校5年生、まだ11歳の万引き犯だった。仮に少年Aとする。

 スーパー勤務のガードマンが発見して警察署まで連れてきたけれど、肝心の盗んだブツがどこにもない。ガードマンは、書籍を1冊盗んだのを見たと、意見を曲げない。当時は防犯カメラも少なかったから、少年Aは、「僕が何を盗んだんですか? 証拠は?」と、ふてぶてしい態度でしか答えない。

 刑法第41条には、「14歳に満たない者の行為は罰しない」と規定されているため、14歳未満の少年が犯罪を起こしても罪にはなりません。ただし、罪にならないだけで少年審判を受けることになる場合もありますが、身元引受人として親を呼ばなければいけない。

 2時間ほど取り調べをしても「僕は万引きなんてしていません」と言うだけ。でも、親に身柄を引き渡さないといかん。そこで実家の電話番号を聞いて問い合わせたら、母親が駆けつけたのだが、「私の子供ではありません」と断言した。

 どういう事情かと言うと、ワシが現役時代は「連絡網」という紙が配られていて、クラスメートの連絡先や電話番号が記された用紙が配られていた。その用紙の連絡先を、少年Aは暗記していたのでしょうね。同級生の名前を自分の実名として語り、電話番号も住所、母親の名前を暗記した情報をワシに伝えた。

 母親と呼ばれた女性が、「自分の子供じゃありません!」と断言してくれたから、その後に真実の名前と住所、連絡先を聞き出すことができたけれど、万引きした本は店の前の植え込みに投げ捨ててあったし、やる気はあったのに、小学生にまんまと騙されるなんて想像もしていなかったから、その晩は悔しくて一睡もできなかった。被害者を少しでも減らしたいと思い刑事になったのに、「自分は何のために刑事になったのか」と自問自答し続けると、泣くにも泣けないし、被害に遭ったスーパーにも申し訳なくて。

 ただしワシは、失敗を無駄だとは思っていない。小学生にウソをつかれた経験で得た教訓は3つある。

 一人前の刑事になるには三本柱が必須で、その1つが「取り調べ方法」。取り調べには技術が必要で、いきなり「お前、〇〇を殺しただろう」と聞いても当然、真実は語らない。罪を犯した犯人でも、少しでも刑を軽くしようと相手を悪者にしがちなんです。

 そこでワシが実行したのが、被疑者が生まれ育った現場での聞き込み。

 以前に1人を殺し、次に2人を殺した被疑者が育った地方へ出向いた時のこと。死刑になる確率も高いから、本人は決して事実を語らない。

 そこでワシが実行したのが、本人の実家周辺への聞き込み。子供時代はみんな真人間。赤ちゃんの頃から不良の子はいないでしょう(笑)。

 そこからワシは、独自の取り調べ方法をあみだしました。あえて「〇〇に大ケガを負わせた」という本題からは入らない。取調室を、小学校の雰囲気に戻すんです。自分の過去から話をして、ワシの目を見ながら話題に興味を持ってくれるまで話す。若い頃はワシもワルだったから、食いついてくれるヤツが多かったかもしれません。大抵が、泣きながら自白するんです。

 捜査官に対して自白することを、業界用語で「唄う」(あるいは謳う)と言いますが、被疑者は、「この刑事さんなら自分の身柄を任せられる」と信用できないと、本音を話さない。要は、刑務所に行くにしても、相手が信用できてこの相手に自分の体を預けられるか信用を得ることが、取り調べの意義でもあるわけです。

 2つめが、「畑作り」。業界用語ですが、捜査に協力してくださる人脈作りを意味しています。

 3つめが「書類作成」。これはセンスが問われます。センスがないヤツが書くと他者が理解しづらい。

 取り調べ、畑作り、書類作成の3つができて初めて一人前の刑事なのですが、ワシが一番重要視していた、初の取り調べでワシは大ミスをこいたわけで‥‥。

 刑事をやめた今でも関わっている事件もたくさんあります。そんな話は、次回にでもお話しします。

秋山博康(あきやま・ひろやす)タレント1960年7月8日生まれ、徳島県出身。通称「リーゼント刑事」。元・徳島県警捜査一課刑事。現役時代、「警察24時」などのTV番組に出演し人気に。現在は犯罪コメンテーターとして活躍。

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