F1買収に2兆5千億円!?「巨額投資」頓挫の裏で囁かれる「スポーツ洗浄」とは

 F1といえば、言うまでもなく世界最高峰の自動車レースだ。そのF1に破格の買収話が寄せられていたと、アメリカの経済専門紙「ブルームバーグ」が報じた。

「買収話を持ち掛けたのはサウジアラビア政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)です。結局は破談したということですが、その買収額が桁違いなので波紋を広げています。F1の運営はアメリカのメディア企業リバティ・メディアが握っていますが、リバティが17年にこれを得たときは46億ドル(約5970億円)だったものが、PIFが提示した金額は200億ドル(約2兆5950億円)なので、元値の約4.3倍で、この5年間でちょうど2兆円が丸々値上がりしたことになります」(経済ジャーナリスト)

 最近流行りのインフレ率で言えば、430%なのだからどうしたって破格過ぎる。さすがはオイル・マネーというわけで、おいしい話と言えばおいし過ぎるわけだが、だからこそ全てが金で買えるわけではないと、反発も起きる。

 F1は国際自動車連盟(FIA)が統括し、運営をリバティが行っている。そのリバティは欧州系投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズから17年に46億ドルで買い取った経緯があるわけだが、その時はFIAの承認が必要だった。そして今回の報道に際し、FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長はかなりの難色を示した。これにはリバティ側も「我々の権利に干渉」とFIAに対決姿勢を示しているが、いずれにせよ、西洋とりわけ欧州にとってモータースポーツは利権の場であり1つの文化でもあるので、〝金目〟の買収には文明の衝突が起こりかねない。例えばあらゆるスポーツに手を広げ、F1にもチームで参加しているレッドブルからも「文化的に異なる国」に買われることへの懸念の声が寄せられている。

 加えて出てくるのがオイル・マネーによるスポーツを通じたイメージ洗浄である「スポーツウオッシング」批判だ。

「もともとPIFにはイングランド・サッカーのニューキャッスル・ユナイテッドを買収したり、ゴルフの世界的名プレイヤーだったグレッグ・ノーマンがCEOを務め、PGAに対抗する新たなゴルフツアー『LIVゴルフ』の後ろ盾だったりと、スポーツ界に莫大な金をバラ撒いていることで批判の対象となっています。とはいえF1にとっても中東はおいしい市場なので、04年にバーレーンでF1が開催されて以来、09年にアラブ首長国連邦、21年にサウジアラビアと、中東での開催が増えています。カタールでも21年に開催しましたが、22年はサッカーW杯に専念して取りやめにしていたところ、かえってW杯開催で非人権的な批判が噴出して、スポーツで社会の暗部を隠蔽するあこぎな洗浄ぶりが注目されましたね」(同)

 そもそも札束で何でも買えると思っていること自体、人々の反感を買う。今回の騒動もその証左の1つとなったわけだが、とはいえ、金に平気でなびくのも人の性。スポーツ界のあらゆる場面で、オイルマネーが静かに浸透していくのは避けられないだろう。

(猫間滋)

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