カジノ反対の急先鋒“ハマのドン”が狙う「山下ふ頭でF1開催」のリアリティ

 カジノの誘致を白紙にすると公約を掲げ、17年に横浜市長となった林文子市長が8月22日、突如としてカジノの誘致を正式に表明した。これに林市長を支持した多くの市民は激怒。反対の声が多数寄せられている。

「ハマのドン」と呼ばれる実業家の藤木幸夫・横浜港運協会会長もカジノに反対を表明し、その代わりとして、自動車レースのF1とディズニークルーズを誘致すべきだとの考えを示した。「FRIDAY」9月13日号が報じたところによると、藤木氏の側近はすでにF1開催の準備を行っており、横浜市が許可すれば3年以内にF1を開催できるという。

 が、実際のところ、それは可能なのだろうか。
 
「まず、今のF1の興行面を仕切っているのはどこか、知っておく必要があるでしょう。興行を担っているのは、アメリカのメディア企業である『リバティ・メディア』。17年から興行に乗り出しました。彼らの基本戦略は拡大路線で、レース数を増やせば収入も増えるという考え方です」(モータージャーナリスト)

 8月29日に来年のF1暫定カレンダーが発表され、来年は今年より1戦多い22戦が開催される。これは史上最多。レースが増えるのであれば、横浜にも十分チャンスがありそうに思えるが、コトはそう簡単ではない。

 ドライバーやチームは過密スケジュールに不満を募らせており、これ以上レースが増えることに反対しているからだ。実際、新たにレースを組み込む余地もない。来年は2週連続でレースが開かれるのが7回もあるという過密日程だ。

 また現在、F1は1つの国でレースが2回開催されることはなく、日本ではすでに鈴鹿サーキットでの開催が決まっている。F1と鈴鹿サーキットの契約は2021年までだが、ホンダがF1から撤退しない限り、契約は延長されるという見方が一般的。横浜は鈴鹿から開催権を奪わないと開催は難しそうだ。

「もう1つ大きな問題があります。それは開催権獲得のために多額のお金をリバティ・メディアがオーナーを務める『フォーミュラワン・グループ』に支払わないといけないという点です。リバティ・メディアになってから、開催費用は右肩上がりになっていると言われています。開催地のひとつ、イタリア・ロンバルディア州のモンツァは多額の費用がかかることに難色を示し、来年以降の契約延長がなかなか決まりませんでした。また、ドイツのホッケンハイムは今年限りですが、これも費用面が理由のひとつであると言われています。横浜市が莫大な開催費用を負担できるのかどうか…」(前出・モータージャーナリスト)

 ちなみにイタリア・モンツァの契約交渉が行われていた最中、リバティ・メディアはモンツァに対して5年で1億2250万ユーロ(約147億円)を要求したという報道が流れている。

 問題点はまだある。コースだ。横浜は山下ふ頭を走る市街地コースを想定しているという。

「現在、市街地コースを採用しているところはアゼルバイジャン、モナコ、シンガポールがあります。サーキットを用意する必要がないので、低コスト開催できるのが魅力。アメリカのマイアミも市街地コースでの開催を目指していました。市街地コースは道幅が狭く、コースアウトした車が退避するためのエスケープゾーンを用意するのが難しい。安全性の面から、F1サイドは市街地コースでの開催に前向きではないと言われています」(前出・モータージャーナリスト)

 総合すると、横浜でF1を開催するのはかなりハードルが高そうだ。だが、山下ふ頭を疾走するF1マシンを見てみたいファンも多いはず。いくつもの困難を乗り越えて、開催にこぎつけてほしいものだ。

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