政策の目玉としてぶち上げていた大型減税策が、金融市場の混乱を招いた問題を巡り、「責任を受け入れ、間違いを謝りたい」と、公の場で陳謝していたイギリスのリズ・トラス首相が20日、突然辞任を表明した。この前代未聞の出来事に、国内外から大ヒンシュクと呆れた声が沸き起こっている。
トラス氏は、ジョンソン前首相が7月に辞意表明したことを受け、保守党の党首選に立候補。ロシアによるウクライナ侵攻で加速したインフレに英国が苦しむ中、「減税」を掲げて勝ち抜いた。
「トラス氏は、富裕層が受ける恩恵は、やがて中間層や低所得者層にも行き渡るという考えのもと、減税策の柱として『法人税率引き上げ凍結』など、企業や富裕層を意識した政策を掲げました。しかし、結果的に、財源の不明確な減税策は市場の不信感を招き、英国債やポンドが下落。大風呂敷を広げたものの、ほぼ全面撤回に追い込まれ、結局、課題に対処できない無能さを露呈してしまった。とはいえ、首相就任からわずか45日での辞任はいくらなんでも無責任。実質的な在任期間として当然、史上最短になりますから、イギリス国民から批判が起こるのも無理もないでしょう」(全国紙記者)
突然の辞任については、欧州のメディアからも辛辣な批評が相次いだ。
「イギリス政治史における最悪の事態」(アイルランド紙のアイリッシュ・タイムズ)、「たった44日間で数百万人ものイギリス人の経済状態の悪化を加速させ、国際的なイギリスのイメージを弱め、政権を12年握る中で弱まってきた保守党の団結を劣化させた」(フランス紙ル・フィガロ)、「トラス氏は首相として中身がなく、守るべき計画もなく、政府の仕事を効果的に伝えることもできず、議会グループと完全に対立していた」(スペイン紙のエル・パイス)
ざっと挙げただけでもこれほど辛口な批評が並ぶ。まさに世界中から嘲笑された形だ。
「実は、トラス氏は就任直後から国民に不人気だったこともあり、英タブロイド紙デイリー・スターが、トラス氏の在任期間とレタス1玉の消費期限のどちらが先に切れるか、という辛辣な推測記事を掲載していて、その『競争』が世界中で話題になっていたんです。米紙ニューヨーク・タイムズも、『コメンテーターたちはトラス氏がレタス1玉(の賞味期限)を超えて(首相を)続けられるかどうか広く推測していた。彼女は結局続けられなかった』と伝えています」(前出・全国紙記者)
それだけではない。ロシアのプーチン大統領の側近、メドヴェージェフ前首相もこの競争に言及し、ツイッターに「さよならリズ・トラス、おめでとうレタス」と投稿したのだった。
与党・保守党は10月28日に党首選を終える予定だが、ジョンソン前首相が不出馬を決めたことで、スナク元財務相の新党首選出の可能性が高まった。とはいえ、イギリスの混迷はまだしばらく続きそうだ。
(灯倫太郎)