アジアの鎮静化に対して、ヨーロッパでは「パンデミック状態」とWHO(世界保健機関)が公表。ところがイギリスは思いもよらぬ「終息計画」を発表した。これが大批判を浴びてトーンダウンしているという。
全国紙外信部記者が解説する。
「当初、ヨーロッパ諸国では、新型コロナウイルスをアジア圏限定の疫病だと甘く捉えていました。風向きが変わったのは、イタリアで集団感染が確認された2月下旬以降です。3月19日の時点で感染者は4万人を超え、死亡者数も中国を超える3400人を記録。感染者の特定を優先するあまり、症状の軽い患者と重い患者を交ぜて診察してしまったことが原因でした。日ごとに重篤な患者が増えており、ベッド数が足りないので、仮設の病院の建設に奔走している状況です。もはや、医療体制は崩壊目前まできています」
イタリアに端を発したヨーロッパの感染爆発は収まる気配がない。特に、地続きのフランスやスペインも深刻で、
「両国とも感染者数が1万人を超えました。スペインが非常事態を宣言。フランスも罰則を設けるなどして外出制限を発令しましたが、しょせんは後の祭りです。感染者数は雪だるま式に増加しています」(外信部記者)
そんな感染拡大に歯止めが利かない欧州各国を横目に、独自のコロナ対策を打ち出したのがイギリスだ。
12日に政府の緊急会議でジョンソン首相が、
「我々は現在、実施している明確な計画がある」
と発表。この「明確な計画」の中で推し進めようとしていたのが「集団免疫」を形成するという奇策だった。政府が特段の新型ウイルス対策を講じないことで、イギリス国民6600万人の60%にあたる3600万人をウイルス感染させ、国民全体の感染爆発を防ぐ効果を狙ったものだ。だが、この集団免疫には多くの批判が出た。
感染症に詳しいナビタスクリニック理事長(東京都・立川市)の久住英二院長が解説する。
「『集団免疫』とは、ウイルスの抗体を持つ人が増えると、感染症が流行しなくなる現象です。抗体を持つ人が増えると、ウイルスは死滅するために人から人に伝搬できなくなるからです。あえて、自然に感染させて抗体を得るのは、かつて天然痘の予防法として行われていた『人痘』に近い対策です。人痘とは、天然痘患者の水疱の一部を健康な人の鼻に吹き込むことで、軽く罹患させて、体内に抗体を作る処置です。自然に天然痘になると30%ほどの死亡率でしたが、『人痘』では死亡率が低いので、危険を承知で行われていました。感染症撲滅のためには遅かれ早かれ『集団免疫』の獲得が必須ですが、今回のケースはかなり時代錯誤で危険な対策です」
国の管理体制が整わないまま、自然に抗体を作ろうとすれば、多くの犠牲を生み出すおそれがある。医学博士の中原英臣氏が解説する。
「本来、『集団免疫』はワクチンの接種によって形成するもの。それができないから、自然感染によって抗体を作る方針なのですが、感染をコントロールできるかはなはだ疑問です。確かに、感染後に回復して抗体を持つ人は現れるかもしれませんが、一定数の死亡者は覚悟しなくてはなりません」
これをイタリアの死亡率7.3%に当てはめると、実に約250万人が犠牲になる計算だ。
それでもイギリスが「集団免疫」の獲得にこだわる理由は、イギリスの医療を支えているNHS(国民健康サービス)を維持するためにほかならないという。
「イギリスのゴールは緩やかに感染者数を増やして抗体ホルダーを作ることでしょう。イタリアのように患者数が爆発してしまうと、ただでさえ乏しい予算内で運営しているNHSがパンクしかねませんからね」(久住氏)
一方、WHOのテドロス事務局長は中国・武漢の「封鎖作戦」を称賛していたが‥‥。
「極端な封鎖を敷いて、国全体に免疫ができていない状態だと、再び人が出入国するタイミングで新たな感染爆発を引き起こしてしまう可能性があります」(久住氏)
「見えない敵」との闘いはまだまだ長い模索が続きそうだ。