イギリス政府がタコやカニ、大型エビにも「痛み」の感覚があるとして、それらを動物福祉法案の保護対象に追加した、とCNNが伝えたのは今月23日のこと。
イギリス政府は2021年5月、動物を「感覚を持つ『生きとし生けるもの』である」として法的に認定。ペットや家畜、野生動物の福祉施策に取り組む動物福祉法案を可決した。
「保護対象となる動物は当初、体に背骨を持つ『脊椎動物』のみとされていました。ところが、これに異を唱えた動物愛護団体が『甲殻類や軟体動物にも感覚があるはず』として独自調査報告書を政府に提出した。そこで、英政府がロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)という専門機関に調査を依頼。調査チームが、学習能力や痛み受容器の保有、痛み受容器と脳の特定領域とのつながりなど、300件以上の科学的研究を行った結果、タコには『非常に強い』感覚があることが証明され、カニの大部分についても『強い』、イカやロブスターなどはそれほど強くはないものの、『実質的な感覚がある』との結論が導き出されたのです」(科学ジャーナリスト)
研究により「感覚があると見なされるべき」との結論が下されたのは、イカ、タコなどの頭足類の軟体動物と、エビ、カニなどの十脚類の甲殻類で、政府に提出された報告書には、十脚甲殻類や頭足動物を輸送、あるいはしめる際の最善方法と「ロブスターやカニを生きたままゆでてはならない」といった記述まで盛り込まれたという。
とはいえ、タコやカニ漁に規制がかかるとなれば、漁業関係者に与えるダメージは計り知れない。イギリス政府は、現段階では漁業や外食産業に「直接的な影響はない」としているが、LSE関係者はCNNの取材に対し、「人間が完全に無視してきたこれらの無脊椎動物を保護することは、動物福祉においてイギリスが世界でリードするためための一歩となるでしょう」とコメント。この言葉の裏には、現在は法的な縛りはないものの、今後の動物福祉施策において、今回の決定が考慮されるとも受け取れる。
かつては「悪魔の使い」として欧米人から敬遠されたタコも、いまや刺身や鮨のネタとして大人気だが、欧米の街から「ゆでだこ」が消える日が来るかもしれない。
(灯倫太郎)