米共和党のロブ・ポートマン上院議員が先月26日、「中国スパイ」による米金融機関への諜報活動があったとの報告書を公表。報告書よれば、中国が米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)の内部情報獲得のため工作活動をしていたという。中央銀行の内部文書ダウンロードなどに関わり、中国政府関係者との接触も確認された、としている。
「報告書では、8地区の連銀関係者を含め、中国の工作員とつながる13人を特定したといいます。中国のスパイ活動が、中央銀行に侵食していることが明らかになったわけですが、11月に中間選挙を控えるバイデン大統領としても、強い危機感を抱いたことは間違いないでしょう」(米国の事情に詳しいジャーナリスト)
7月には、在米の中国反体制派に対するスパイ活動や嫌がらせ行為に関与したとして、米国土安全保障省に勤務していた工作員2人が起訴されている。
「昨今の中国による諜報活動の活発化を受けて、7月6日にFBI(米連邦捜査局)のクリス・レイ長官がイギリスを訪問。MI5(英情報局保安部)のケン・マッカラム長官とともに、ロンドンでビジネス界と教育界のリーダーに対して合同講演を開いています。この席でレイ長官は『われわれの経済や安全保障にとって、長期的かつ最大の脅威』として、中国によるスパイ行為への危機感を表明。両機関のトップが並んで講演するなど極めて異例ですが、状況はそれくらい深刻だということです」(同)
一方、マッカラム長官は講演で、今年5月に中国共産党工作員による航空宇宙企業への「高度な攻撃」があり、それを阻止したと説明。また、サイエンスやテクノロジーの分野で修士・博士号レベルの研究が行える英留学生制度「アカデミック・テクノロジー承認スキーム(ATAS)」の実施後には、中国人民解放軍と関係があると思われる学生50人以上がイギリスを出国した、と明らかにした。
「講演で両長官は、すべての中国企業が中国政府と関係があるとは言えないものの、『中国政府にとって、AI技術や先端研究などに携わっている企業のノウハウは重要な関心事である可能性が高い』として警告しています。極端な秘密主義をとる両組織のトップが、ここまで情報を明らかにするなどきわめて異例。イギリスはこの件で、過去12カ月にわたり37カ国と連絡を取っているといいますから、今後、中国スパイに対する包囲網が広がることは間違いないでしょう」(同)
講演翌日の7日、中国外務省の趙立堅報道官は記者会見で、「我々は、アメリカの高官に中国の発展を正しい視点で客観的かつ合理的に見ること。嘘を広めたり無責任な発言をやめるよう強く求める」と激しく反論している。
習近平国家主席の3選が決まる共産党大会を控え、西側の対中包囲網は日を追うごとに強まるばかりだ。
(灯倫太郎)