大和田伸也「インドを1カ月旅して人生観が変わった」/ガタガタ言わせろ!

 地球温暖化防止策のヒントは、インド人の暮らしの知恵から得られるような気もしている。

 35年ぐらい前だったかな。当時流行っていたネイチャースペシャル的なドキュメンタリー番組で、中国を1カ月かけて回ったあと、インド全土も1カ月、旅したんだよね。「孫悟空のルーツを訪ねる」ような企画だった記憶がある。僕は40歳になる直前。俳優業の仕事が詰まっていたけど、「これ以上、年をとったらインドのような過酷な国には旅行できない」と思い、無理やりスケジュールを調整してもらって臨んだ。

 予想通り、インドは日本の快適な環境に慣れた自分にとって、衝撃的なできごとの連続だった。

 生水を飲んではいけない諸外国は多いけど、インドは極めて水質が悪い。事前に、「生野菜を食べてはいけない」と注意されていた。当然だよね。生野菜を洗う水自体が汚れているんだから。川上で用を足しているその下流で、沐浴をしている人がいる。だから、生水を使用していない飲食店を探すために、車で何時間も移動することも珍しくなかった。入国前に7種類ほどの予防接種を受けて事なきを得たけど、油断したら生死に関わっていたかもしれない。

 今より厳格だったであろうヒンドゥー教における身分制度、カーストもカルチャーショックだった。身分が上位の富裕層は、野球場を貸し切って結婚式を挙げたりする。現地では俳優も身分が上で、映画の主演を演じられる人は世襲制。一族たちはお城のような豪邸に住み、がっぽりと稼ぐ。生まれた時点で身分が決められているから、いくら芝居が上手でも下位層は絶対に主演には選ばれない。

 番組の撮影中は、カーストの下位とされている人たちとも話をしましたよ。山の中で暮らして、自然と共存共栄している方々と。

 その時に彼らの生活スタイルを聞いて驚いたんだけど、ゴミや汚物は全て、「山の中に掘ってある穴に埋める」とのこと。そして埋めたままで何年か経つと、栄養を豊富に含んだ肥料になるため、農作物の生育に役立てているという。

 日本では、簡単に実現できない方法かもしれない。だが、物を燃やして二酸化炭素を出す今のやり方よりは、学ぶべき点が多い処理法なのではないか。地球温暖化をできるだけ食い止めるためにも。

 インドでは学んだ一方で、「ふざけるな!」と、頭にきた現実にも直面しましたよ。僕が行ったどこの飲食店でも、小学校低学年ぐらいの子供が、店員として働いているんです。大人が労働していない。学ばなければいけない平日の日中に働いているんだから、子供は文字の読み書きをできずに育ってしまい、将来困るのではないか‥‥。「もっと大人が守ってやってくれよ!」と怒りながらも、何もできない自分に不甲斐なさを感じたりもしました。

 ちなみに、「インドへ旅行すると人生観が変わる」とは、実際に行った人からよく聞く言葉ではないだろうか。私も人生観が変わった1人だが、「具体的にどう変化したか?」と聞かれると、答えるのが難しい。どこへ行くにも不便で、その過程の大変さが、日本での安心・安全な暮らしを思い起こさせてくれるからかもしれない。僕は帰りの飛行機で、「早く温かい湯船に浸かってお湯が出るシャワーを浴びたい」と思ってしまい、価値観がすぐ、日本基準に戻ってしまった(笑)。でも、いい経験だったな。

大和田伸也(おおわだ・しんや)俳優。1947年10月25日生まれ、福井県出身。21年、NHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」ではヒロイン・安子(上白石萌音)の祖父・橘杵太郎役を演じる。ドラマ内の台詞「美味しゅうなれ!」も話題に。

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