大和田伸也「セットを組む予算がないのでロケばかり」/ガタガタ言わせろ!(2)

 僕が頻繁に京都へ通っていたのは「水戸黄門」を撮影していた時期だけど、今は新作の時代劇がほぼ見られなくなったのも、恩恵を受けた自分としては悲しい。ドラマの制作費削減で、最初にカットされたのが時代劇だそう。NHK以外の民放では、2011年にレギュラー枠が消失したとか。

 時代劇は現代劇と比べると、莫大な制作費がかかるからね。京都の太秦にある東映京都撮影所のセットの維持費はもちろん、技術職の方々がいないとドラマが成立しないから。髪を結う床山さんや着付け師、現場を仕切る演技部、誰一人欠けてもドラマは撮れない。

 太秦の撮影所スタッフは、こだわりも強いから、東京から来た役者をよそ者扱いすることでも有名だった。スタッフがわざわざ、撮影前に言うんだよ。「東京では売れてるかもしれないけど、調子に乗るんじゃねえぞ」って。これが〝太秦の洗礼〟。ある女優さんは心がへし折られて、撮影中にホテルへ戻って、その後、東京へ逃げ帰っちゃった。

 僕は、松方さんに助けていただいた。ある番組で共演した時に京都へ行くと言ったら、「わかった。ちゃんとしておいてやるから大丈夫」と言ってくださって。初対面のスタッフから、「お兄ちゃんから(話は)聞いてるよ」と、皆さんが温かく迎えてくださった。亡くなった今も、松方さんには、足を向けて寝られないほど感謝してます。

 時代劇同様、近年は現代劇の制作予算も大幅にカットされている。昔はテレビ局のスタジオ内に全て、セットを組んでたんで、テレビ局を回れば撮影ができるから、終わるとみんなで食事に行って交流していた。

 だけど最近のテレビドラマは、セットを組む予算がないから、作品に見合うロケ地を探す。大抵が地方だから、朝5時に出発して2、3時間かけて現地で夜10時頃まで撮影して、とんぼ帰りが基本。都内に戻るのがてっぺんを超えることも珍しくないから、みんなで食事には行けないし、交流もできない。

 昔のように泊まりで地方ロケに行くと、大きな旅館を貸し切ってどんちゃん騒ぎしていたのが懐かしい。その交流方法が正解だとは断言しないけど、ゴージャスな時代と低予算時代の両方を経験した身から言わせてもらえば、世知辛い世の中になって切ないなぁ。

大和田伸也(おおわだ・しんや):俳優。1947年10月25日生まれ、福井県出身。21年、NHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」ではヒロイン・安子(上白石萌音)の祖父・橘杵太郎役を演じる。ドラマ内の台詞「美味しゅうなれ!」も話題に。

*「週刊アサヒ芸能」9月1日号掲載

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