人里離れた場所にポツンと佇む秘境駅は全国に数多く存在するが、その中でも“日本一の秘境駅”と呼ばれているのがJR室蘭本線の「小幌駅」(北海道豊浦町)だ。
ここはもともと信号場だったが、国鉄からJRに分割民営化された87年に駅に昇格。正面を海、三方を険しい山に囲まれており、外界から駅に向かう道は存在せず、訪問可能な交通手段は鉄道だけ。文字通り陸の孤島のような場所のため、当然だが住民は誰もいない。
そんな小幌駅は2つのトンネルに挟まれた80メートルほどの狭い空間にあり、ホームの長さも車両2両分程度と短い。トイレや保線作業員の詰所はあるが駅舎はなく、しかも、ホーム周辺はマムシやスズメバチの多発地帯。注意を促す看板が立っており、秘境駅日本一の称号にふさわしい環境となっている。
また、海から近いとはいえ、海岸からは250メートル離れており、海に出るには高低差90メートルの急斜面を下らなければならない。ただし、穴場のスポットとして釣り好きには有名で、噴火湾が一望できる絶景ポイントでもある。さらに歌人としても知られる江戸時代の僧侶・円空が彫ったとされる岩屋観音もあり、秘境駅の割には意外と見どころは多い。
「当初、JR北海道は16年3月で廃止する意向を示していましたが、地元豊浦町が駅の維持管理費の負担を申し出たことから土壇場で存続が決定。現在はテレビや雑誌、ウェブなどでも取り上げられ、鉄道や秘境駅にそれほど興味のない観光客も訪れるようになっています」(地元紙記者)
とはいえ、同駅に停車する列車は上下線合わせて1日わずか6本。普通列車ですら一部は通過してしまい、お世辞にもアクセスがいいとはいえない。
「それでも東室蘭方面からの乗車なら小幌駅到着が15時6分。そして、15時50分には東室蘭行きの列車が来るため、駅周辺を少し散策する程度にはちょうどいい時間です。実際、駅を訪れる人の多くはこの列車を利用しています(※発着時刻は22年8月現在)」(同)
快適さとは無縁だが、ひと夏の思い出にプチ冒険を楽しむのも悪くないかも。
(高島昌俊)