人里離れた山奥などの人も建物もない場所にひっそりとある秘境駅。朽ちかけた古い駅舎でもあればいいほうで、短いホームのみで建物すらないという駅も珍しくない。
だが、そんな秘境駅のイメージを完全に覆す駅が中国山地の奥地にある。鳥取県智頭町にある智頭急行線の恋山形駅だ。
通常なら鉄道駅には絶対使わないであろうショッキングピングで統一。まるでメルヘンの世界から飛び出してきたような衝撃的な駅は、自然豊かな山間部の風景に調和することなく、頑なまでに自己主張の強さを感じさせる。
ただし、地元に山形という地名はあっても恋山形はどこにも存在しない。1994年の智頭急行線の開業に合わせて誕生した同駅は、当初は因幡山形駅という名前になる予定だった。
ところが、町を離れた人間に恋しがってもらえるように、そして人が“来い(恋)”、との願いを込めた地元住民からの提案をもとに現在の駅名に決定。駅を現在のピンク一色に染めたのは2013年のことで、これは全国に4つしかない「恋」の名がつく駅と鉄道会社が連携した「恋駅プロジェクト」の一環によるものだ。
でも、結果としてこれが大正解。“恋が叶う駅”として鉄道にあまり興味のない若い女性やカップルなども多く訪れるようになり、恋愛成就のスポットとして聖地化。今では恋山形駅そのものが智頭町を代表する観光名所のひとつになっている。
駅名標はハート型で、さらにホームの端には鳴らすと願いが叶うかもしれないピンク色の「恋の鐘」が設置され、ハート型の絵馬を奉納できるようになっている。また、ホーム入口の脇にはラブレターを届けるための恋ポストがあり、ここから手紙を出すためにわざわざ訪れる女性もいるようだ。
駅前の自動販売機では恋山形駅のオリジナルグッズが販売されているほか、駅に向かう坂道も「恋ロード」としてピンク色に塗られており、車で来た人にもわかりやすい。
なお、土日祝は上下線各1本が25分間停車するので、途中下車せずに駅をじっくり見学することも可能。ほかの列車や平日でも日中なら数分程度停車する場合も多く、記念撮影をする程度の時間なら十分ありそうだ。
恋の願い事がある人は、ぜひ恋山形駅を訪れてみてはいかがどうだろうか。
(写真・文/高島昌俊)