ウクライナ東部の最後の防衛拠点となっているルハンスク州・リシチャンシクを、「ロシア軍が完全包囲した」とアメリカの戦争研究所が7月2日に発表。ルハンスク州の残りの地域も、ロシア軍が数日間のうちに制圧する可能性が高まったとの見方を示している。
ウクライナによる抵抗で作戦変更を余儀なくされたロシア軍は、現在もなお東部ドンバス地方の制圧にポイントを定め、集中的な攻撃を繰り返しているが、
「東部2州を支配下に収めることが出来れば、プーチンが掲げる『特別軍事作戦により、ドンバス地方とそこに残されている親ロシア住民を解放する』という大義は成立し、国内的にも『成功』だと示せるはずなんです。しかし、セベロドネツクやリシャンシクを掌握したあとも、ロシア軍による攻撃は収まる気配は見られない。これは、プーチンがもっと大きな狙いを持っている証だと考えていいでしょう」(ロシア情勢に詳しいジャーナリスト)
では、プーチンの最終目標は何なのか。そのカギになるのが、彼の1月前の発言にあるというのだ。
「6月初旬の演説で、プーチンは自らを、18世紀の大北方戦争でスウェーデン軍と領地を奪い合ったピョートル大帝になぞらえ、『(国土を)取り戻し強化することを、私たちも求められているようだ』と力を込めています。つまり、ウクライナ東部のドンバス地方を占領し事実上の国境線を引き直すばかりか、南東部のマリウポリから南部オデッサまでを手に入れて黒海沿岸を掌握。その西隣にはモルドバ共和国内でロシアが実効支配している『沿ドニエストル共和国』がありますから、それらすべてを地続きで支配できるようになります。プーチンの当面の目標はそこにある可能性が高いと思われます」(同)
ロシアが黒海沿岸を制圧すれば、ウクライナは内陸国になり、主産業たる鉄鋼や農産物の輸出もままならず、経済が破壊される。それがプーチンの狙いだというのである。
「ソ連が崩壊する前にプーチンはKGB将校として東ドイツにいて、祖国が崩壊していく姿を見て言葉を失うほどのショックを受けたといいます。ところが90年代に入ると、今度は多くの東欧諸国がEUに加盟し、またNATOの東進も許してしまった。プーチンはそれがどうしても許せない。プーチンが信奉するピョートル大帝は現在のウクライナにあったポルタヴァで、スウェーデンのカール十二世を撃破して敗走させ、現在のロシアの礎を築いた彼にとっての英雄。そう考えると、プーチンが最終的に目指すものはロシアの伝統的な勢力圏の再獲得であり、まずはウクライナを手中に収めて親ロシア的政権を樹立し、その次には東欧諸国を徐々に中立化させ、ロシアにとっての脅威を取り除いていく。そんなことを視野に入れている可能性は大いにありますね」
ウクライナ東部に加え、南部も制圧するとの軍事目標を掲げるロシア軍。戦争の終わりの兆しはまだ見えてこない。
(灯倫太郎)