ウクライナへの軍事侵攻でなかなか成果が見いだせないプーチン大統領。今月初めには、ロシア国防省で国際局長も務めた退役将校が、出版社のウェブサイトのインタビューで、「初期段階で戦略上の大きな見込み違いがあり、作戦が滞っていることが明らか。ロシアは地政学的な意味ではすでに敗北しており、情報戦や心理戦でも完全に敗れている」と政権を痛烈に批判。かつて重鎮とされた人物の発言だけに、ウェブ上では大きな論議が沸き起こった。
同様に、戦争の長期化により国民の中からも、不満の声が上がり始めているが、そんな中、突然政府が発表したのが「志願兵の年齢上限撤廃」だった。タス通信によれば、ロシアの議会で軍の志願兵の年齢制限を撤廃する法案が可決されたのは25日のこと。
「現在ロシアでは、18~40歳までのロシア国民と、18~30歳の外国人が志願兵の契約ができるとしていましたが、この年齢を上限、下限ともに撤廃するというのです。ウクライナ侵攻におけるロシア軍戦死者は推定1万5千人とされ、年齢制限撤廃には兵員不足を補う狙いがあることは間違いありません。ただし、入隊すれば精度の高い武器や機材などを扱わなければならず、そのためにはある程度の年齢制限はあってしかるべきで、来るもの拒まずでは成り立たない。現状、そのくらいプーチン氏が崖っぷちに立たされていることの表れですね」(軍事ジャーナリスト)
しかも、ロシア下院で法案を可決する場合、通常3回に分けて審議されるのだが、今回の「志願兵の年齢制限撤廃」審議は、25日に全会一致で可決され、上院が承認。近くプーチン大統領が署名し発効するというから、兵員不足による「急募」が見え見えだ。
さらには、国内ではもうひとつ大きな動きがあった。それが、翌26日に発表された「年金と最低賃金引き上げ」だ。
「ロシアでは軍事侵攻が始まる前の、年初に年金額を8.6%引き上げていたのですが、戦争によりルーブルが暴落、国民の不安が高まってきた。現在はなんとか持ち直し、インフレ率は17.5%の水準を推移していますが、戦争長期化による孤立で物価高騰は否めない。そこで、6月1日から非就労者の年金を10%引き上げることで、対応するという方針を打ち出したのです。プーチン氏はさらに、『我々の主要な作業は最低賃金のさらなる引き上げだ』と述べ、就労者の最低賃金の増額も発表しています。むろん、これらの政策は支持率低下を回避したいという思いがあることは明白ですが、耳あたりのいい事ばかり並べても、結局戦争が長引けば支持率は下がる。だからこそ、国民の不満が爆発しないよう『年金と最低賃金引き上げ』という飴を与え、その一方で『志願兵の年齢制を撤廃』して、老若関係なく戦地に送り込むという施策に転じた。そこに、プーチン氏の焦りが見えますね」(同)
暴君に振り回されるロシア国民の心情とは……?
(灯倫太郎)