バブル崩壊後の1990年代から08年のリーマンショック後の2010年代までが「失われた20年」で、そこから10年を経た現在、日本人の所得がぜんぜん伸びていないことで「失われた30年」の論議が毎日のようにマスコミで語られている。アベノミクスは金持ちをさらに富ませたがトリクルダウンが起きることはなく、格差ばかりが広がった。さすがにこれではマズイと岸田政権は「分配」を掲げるが、具体策はほぼ皆無というのが現状だ。
ところが、主要先進国でもアメリカに次いで2番目の高水準にあるドイツでは、最低賃金を25%もアップさせるという。隣の家の芝生は途轍もなく青いというのが、日本政治の現状のようだ。
「ドイツでは11月26日に総選挙が行われましたが、アンゲラ・メルケル首相が総選挙に出馬することなく政界から引退することになっていたので、後任が誰になるのかが注目されていました。ドイツはユーロ内で最大の経済規模を誇る大国ですが、彼女が05年に首相に就任した頃には経済がうまくいっておらず、『ヨーロッパの病人』と称されていました。ところが彼女はその病気を克服し、今では『ヨーロッパの盟主』と呼ばれるまでに復活させて、国際社会でもその存在感は抜群でしたからね」(経済ジャーナリスト)
果たしてその結果は、第2党だった中道左派の社会民主党が得票率約25%で第1党になり、第1党だった中道のキリスト教民主・社会同盟が僅差でこれに続くことに。さらに環境政党で左派の緑の党が約15%の得票率でこれに続いたが、選挙に先立つ24日、これら3党で連立政権を組むことで合意していて、その一部として、現在日本円で約1240円の最低賃金(時給)を1540円に引き上げる計画を打ち出しているのだ。だからこれは実行されることになるのだが、じつに25%アップという大幅値上げになる。200万人の労働者がその恩恵に与ることになると見られ、国民の5%に相当する。
「ドイツではその前から段階的に最低賃金を引き上げることが決まっていて、来年7月には約1340円まで引き上げられることになっています」(前出・ジャーナリスト)
最低賃金の引き上げ論議では、中小企業の人件費負担が増すことから反対されることが多い。だが、そこは政治がなんとかすべきところ。賃金を引き上げないことには「2%の物価上昇」などは夢のまた夢で、これを掲げたアベノミクスの是非はともかく、日本のデフレはさすがにマズ過ぎる。
ドイツではこれに伴って高賃金労働者にも賃上げ圧力が高まると反対の声もあるようだが、それでも断行できるところがやはり日本とは異なる。是非とも見習って欲しいものだ。
(猫間滋)