電気自動車同様、温室効果ガス排出量は実質ゼロと、環境負荷の少なさで注目を集める水素自動車。世界的なシェアはまだ少ないが環境先進国ドイツでは、先月24日から自動車ではなく水素列車の営業運行がスタート。世界初の試みとして大きな注目を集めている。
水素列車が今回投入されたのは、ドイツ北部のハンブルグ郊外にあるブクスフーデと北海に面した港町クックスハーフェンの約100キロを結ぶ近郊路線。世界第2位のシェアを誇るフランスの鉄道メーカー「アルストム」が開発を手がけたが、欧州では当初の予想を上回る反響の大きさだという。
「もともと気動車が走る区間だったことが選ばれた大きな理由ですが、EU圏の非電化区間は米国や中国、オーストラリアほど多くありません。しかし、火力発電の原料となる原油や天然ガスが高騰し、電力で列車を走らせるのはコストパフォーマンスが悪くなってしまった。運賃の値上げだけで対応しきれる次元ではなく、ウクライナ戦争の長期化でロシアからの輸入もほとんど期待できません。ヨーロッパ全体がこのまま一気に水素列車に舵を切る可能性もあるでしょうね」(鉄道ジャーナリスト)
CO2排出量ゼロに加え、低騒音での走行を実現と環境への配慮は申し分なし。だが、これは日本の鉄道産業にとっては大きな脅威だ。
「JR東日本もENEOSと共同で水素ハイブリッド列車の開発を進めており、走行試験が始まっています。しかし、すでに営業運転を始めたアルストム社に対し、こちらは『2030年までの社会実装を目指す』と、開発競争でかなり後れを取っていることは否めません。中国メーカーが相手ではないので安全性や信頼性で大幅なアドバンテージを得るのも難しく、後発であることを考えるとコスト安を実現させなければ諸外国には売れません。また、日本の鉄道車両は高額なため、いくら優れた技術があってもガラパゴス化する可能性もあります」(同)
導入時期の差が致命的なものとならなければいいが…。