─今年中にインドが中国を抜き人口世界一になると言われていますが。
すでに経済成長率では中国を抜いています。やっぱり人口が多いのは強みなのです。人口が14億のインドには日本の10倍優秀な人がいる。例えて言えば、日本の10倍の東大生がいるとも言えるわけです。アメリカのアップルなどIT産業に行くと中国人とインド人ばかりですからね。
─最近、日本でも観光客を見かけます。
豊かになり中流階級が生まれてきましたからね。海外への観光ツアーといえば日本も70年代から80年代に海外でブランド品を爆買いして顰蹙を買っていました。その後、90年代には韓国、2000年代からは中国と、爆買いツアーをやっています。国民性ではなく、経済の発達段階で、どの国も同じことをするわけですよ。つまり、次はインドから日本に爆買いツアー客がたくさん来ていただくということになりますね。
─インバウンドが増えるのはいいことですね。他に池上さんが注目している国を教えてください。
ドイツですね。ショルツ政権は今危機に瀕しています。というのも環境問題を訴える緑の党が、石炭発電を一切止めるという政策協定を結び連立ができた。ところが、ウクライナ侵攻によりドイツにロシアの天然ガスが供給されなくなり、その計画を延長する方針を打ち出しました。すると途端に3万人以上の環境活動家が「直ちに石炭の採掘を止めろ」と炭鉱に押し寄せる騒ぎになりました。もし緑の党が離脱すればショルツ政権は崩壊し、ロシアは大喜びするでしょう。つまり、英米はウクライナでの代理戦争で儲かっているが、他のヨーロッパの国々は耐えるのが大変な状態になっている。非常に危機的な状況になっていることが心配されます。
─日本も電気料金が上がりエネルギー危機を迎えている点では欧州と同じです。
それは確かですが、そうでもない部分もあります。岸田総理は、ロシアのウクライナ侵攻を非難しているような印象ですが、実はそれほど厳しい経済制裁を加えていないんです。例えば、ドイツ、フランスなどはロシアの飛行機が領空を飛ぶことを禁止しています。ところが、日本はロシアの飛行機が日本の領空を飛ぶことを拒否してない。今でも貨物機はロシアの領空を飛んでいます。もちろん日本とロシアは友好国ではありませんが、このダブルスタンダードにより、ロシアから天然ガスも水産物も買っているんですよ。
─日本が二枚舌を使っていたとは。それでも、1日でも戦争が早く終わることを願うばかりです。
同感ですね。
池上彰(いけがみ・あきら)1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。報道局社会部でさまざまな事件を担当。94年より11年間、「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍。2005年にNHKを退社、フリージャーナリストとして多方面で活躍。現在は名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授など11の大学で教える。「伝える力」シリーズ(PHP新書)、「おとなの教養」(NHK出版新書)、「私たちはどう働くべきか」(徳間書店)など著書多数。近著に「そこが知りたい!ロシア・ウクライナ危機 プーチンは世界と日露関係をどう変えたのか」(徳間書店)
*週刊アサヒ芸能2月9日号掲載