竜王戦は直近の成績のこともあり、「藤井有利」とみる向きが多い中、豊島は再び藤井にとっての高い壁となれるのか。
「豊島さんにとってはまさに背水の陣でしょう。ギリギリの勝負ではありましたが、王位と叡王を立て続けに取られて、相当な危機感を持っていると思います。王位戦が始まる前とは逆の状況になっているわけですから。竜王戦では藤井さんが研究していなかったり、慣れていない戦術を豊島さんが使ってくる、といった展開もあるかもしれません」(深浦九段)
棋士会副会長を務める遠山雄亮六段も、竜王戦の展望に興味津々だ。
「藤井さんと豊島さんの対戦成績の軌跡が、藤井さんの成長を表していると思います。藤井さんは天才型というより、むしろ積み上げて強くなるタイプだと思うのですが、そのスピードが尋常でなく早い。ですのでここ最近、白星が先行しているのは、豊島さんの強みだった序盤の戦術において、藤井さんが追いついてきた証拠です。仮にそこが五分だとすると、終盤の強さがトップ棋士でも抜きん出ている藤井さんが有利だと思います。豊島さんがどう戦うか、まず1、2局に注目ですね」
藤井はさらに、今年度中にはもう1タイトル、現在挑戦者決定リーグを戦う「王将」戦で戴冠の可能性が残されている。現タイトルホルダーは渡辺名人。藤井は渡辺との対戦成績で、8勝1敗と圧倒している。こちらも下馬評は、藤井の圧倒的有利だ。
「渡辺さんは、どうも藤井さんとの対戦では肩に力が入りすぎているように感じます」
とは、遠山六段。数字ほどの相性の悪さや実力差があるわけではなく、「あくまで私から見ると」と前置きして、次のように続ける。
「渡辺さんは近年、『自分が強者で相手が挑戦者』という気持ちで、ゆとりを持って戦うことが多かったように思うんです。ですが藤井さんに対してだけは、焦ってやや強引に序盤からリードを奪いに行き、それがうまくいかず負けてしまう印象があります。来年以降、この2人がタイトル戦で戦うことはもっと増えるでしょう。そこで藤井さんとの将棋に慣れてくれば、渡辺さんの巻き返しがあってもおかしくないと思っています」
当の渡辺本人は、棋聖戦後に女流棋士・香川愛生のYouTubeに出演した際に、こう述べている。
「自分が勝てるとしたらこの展開、という少ない中のプランを見つけていって、実際の対戦でいかに具現化していくかというのが今後の課題になると思う。自分の勝てないパターンが1つ2つわかったというシリーズだった」
あまりの強さから将棋ファンに「魔王」と称されてきた渡辺だけに、「次は一泡吹かせてやろう」と目論んでいるに違いない。