藤井聡太「竜王戦」で駆け上がる「八冠ロード」(3)同年代ライバル不在の影響は…

 四天王最後のひとりは、永瀬王座。コロナ禍になる前は、藤井と対戦形式の研究会を開くなど仲がよく、互いの手の内を知る若手強豪の代表格だ。

「タイトル獲得4期の実力派ですが、豊島、渡辺と比較してそこまで絶対的な強さを感じるわけではない。ただ、まだ20代ですし、もうひと伸びあっておかしくない。先の2人よりも藤井とタイトル争いを長く続けていくでしょう」(専門誌記者)

 とはいえ、こちらも渡辺同様、藤井に対戦成績で大きく水をあけられている。藤井の躍進を止め、将棋界の勢力図を塗り替えるような新たなライバルは存在しないのか。将棋ライターの松本博文氏が挙げる若手実力派とは‥‥。

「若手では、佐々木勇気七段(27)や増田康宏六段(23)ら、複数の名前が挙がるでしょう。藤井さんと同学年で今年度の新人王が有力視される伊藤匠四段(19)も、いずれはタイトルを争うであろう逸材です」

 特に伊藤四段は「現役最年少棋士」として将来を嘱望されているが‥‥、

「本当に藤井さんのライバルとなりうるのは、これから初めて将棋を学び、プロになろうとする世代の人の中にいるかもしれません。将棋の世界では、最年少で名人を獲得した谷川浩司九段(59)の数年後に羽生さんが現れたように、天与の才能を持ちつつ新しい戦術やツールに柔軟に対応できる若者が前世代を倒すことが歴史的に繰り返されてきましたから」(松本氏)

 深浦九段は、現時点の将棋界では藤井の力が抜きん出ていると認める一方で、こんな課題を指摘する。

「羽生さんが七冠を達成したのが25歳。藤井さんはまだ伸びるでしょうし、ここ最近の充実ぶりを見れば、数年以内に八冠を達成したとしても驚きません。私は少なくとも、今後10年は『藤井一強』の時代が続くとみています。ただこれはある意味、不運なことかもしれません。例えば羽生さんには、森内俊之九段(50)や佐藤康光九段(52)といった、いわゆる『羽生世代』と呼ばれる、同年代でタイトルを争うライバルの存在がありました。ですが藤井さんは突出しているがゆえ、今後は全ての棋士からマークされる存在になるでしょう。そんな中で、タイトル戦が続くハードスケジュールをいかにこなせるかが課題になると思います」

 藤井が歩み始めた「八冠ロード」。それは17年に叡王戦がタイトル戦に昇格して以降、誰もなしえなかった茨の道だ。前出の松本氏が語る。

「藤井さんは8割を超える勝率で勝ちまくっていますが、逆に言うと10割ではない。現に、9月の棋王戦ではトーナメントの3回戦で敗れて挑戦者になれませんでした。一発勝負に勝たなければいけない局面があることも考えると、タイトルを保持しつつ獲得を重ねることは本当に難しい。ですが、羽生さんはそれをやってのけた。藤井さんにもそれが求められます」

 ここまで藤井の成長ぶりを見せつけられては、夢物語も現実味を帯びてくる。藤井が最後の砦・名人戦に挑むのは最短で23年。全タイトル制覇に待ったをかけるのは果たして‥‥。

*「週刊アサヒ芸能」10月21日号より

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