GoToトラベルと感染拡大の因果関係は、感染症の専門家の間でも意見が分かれているのが現状だ。
「人と人との接触機会を8割削減すること」を提言したことで、〝8割おじさん〟として有名になった感染拡大防止派の京都大学・西浦博教授は、昨年のGoToトラベルが感染拡大に影響した可能性を指摘する論文を発表している。
論文によれば、昨年の5月から8月までに感染者約4000人を分析したところ、キャンペーンが始まった去年7月22日からの5日間に旅行に関連した感染者は127人。その発生率は前の週の5日間と比べて1.44倍に、さらに旅行の目的を「観光」に限定すると、発生率は2.62倍になったという。今回の分析だけではGoToトラベルが感染拡大につながったかどうかを決めることはできないものの、少なくとも初期の段階では感染の増加に影響した可能性があるとしているのだ。
その一方で、常磐大学の栗田順子専任講師や国立感染症研究所の研究者らメンバーは、GoToトラベルと感染拡大の直接的な因果関係を調査した論文を提出。両者の因果関係は確かめられず、GoToトラベルが新型コロナウイルスの感染拡大に無関係であると結論づけているのだ。
こうした中で政府は、感染拡大防止か、経済優先か、という難しい判断を迫られている。しかし、なぜGoToトラベルは再開できないのだろうか、という素朴な疑問を持つ読者もいるはずだ。
自民党関係者が内情を明かす。
「感染拡大防止と経済の両立といえば、聞こえはいいが、実際はブレーキとアクセルを同時に踏んでいる状態で、矛盾をはらんでいる。そもそもGoToトラベルに関しては、全国旅行業界会長を務めるなど、旅行・観光業界と太いパイプを持ち、多額の献金を受けている幹事長の二階(俊博)さんを中心に話が進められた。党内には今も反対派がいて、牽制し合っている状況なんです。菅(義偉)さん自身も官房長官時代は経済優先のスタンスで、安倍さんに『経済を回すことは大事だ』と何度も進言していたが、総理になったとたんに感染拡大防止に方向転換した」
長男の総務省官僚への接待問題も浮上し、菅内閣に対して世論の風当たりが強くなっている中、
「党内では『菅では次の選挙は戦えない』という声も上がり始めている。これ以上、感染者数が増えると、国民の不満の声がさらに強まるのは必至で、菅内閣の支持率が急落することは目に見えている。だから菅さんの本音としては、国民の命を優先するというよりは、自身へのダメージ回避、自己保身のために感染拡大防止の立場を取っているだけですよ」(自民党関係者)
5月以降、全国の地方自治体は65歳以上の高齢者を対象にワクチンの集団接種を開始する予定と発表しているが、終息の兆しはいまだ見えてこない。新型コロナの脅威に加えて、政治的な思惑により二転三転する愚策に、いつまで我慢を強いられるのだろうか。
*「週刊アサヒ芸能」4月8日号より