危険な潜入ルポを得意とするライター兼イラストレーターの村田らむ氏。国内屈指の“自死スポット”と知られる青木ヶ原樹海を取材で何度も訪れているが、今回は不可解な遺留品にまつわるエピソードを公開する。
誰しも「人生の最後に、何を見るのだろう?」と想像したことがあるかもしれない。
青木ヶ原樹海で自死をする人たちは、大自然を見ながら死にたかったのだろうか? と想像してしまうが、実はそうでもないらしい。青木ヶ原樹海での自死事情に詳しいKさんは語る。
「自死者の周りに本が置かれていることは珍しくありません。樹海の歩き方のガイドブックだったり、ロープの結び方の本だったり、実用的なものもありますが、暇つぶし用の小説などが見つかることもあります。最近では、人気作家のトラベルミステリーが置かれていました。自死目的なのかはハッキリしませんが、樹海の真ん中で生きている60代後半くらいの男性を発見したことがあります。彼はこちらの呼びかけには全く反応せず、無心でクロスワードパズルを解いていました」
また新聞や雑誌を持ってきている人もいるという。新聞は時事の出来事を知るためのメディアだが、果たして死の直前に世間のニュースを知りたいものなのだろうか?
「女性アイドルグループの写真集を持ってきてる人もいました。ファンだったんでしょうね。応援しているアイドルに見守られながら逝きたかったのかもしれませんね」(Kさん、以下同)
先日見つかった男性の首吊り死体の横には、彼が生前愛用していたと見られるモノが置かれていたという。
「くしゃくしゃの布が置かれていたんです。よく見ると女性のイラストが全面に描かれていて、オタクの人が持っていそうな等身大の抱き枕カバーでした。抱き枕の中身はかさばるので持ってこられなかったのかもしれません。他には特に何も持っていなかったんですが……そう言えばマスクが遺体の周りにたくさん落ちていました。今から自死するのに、コロナに対してちゃんと予防していて、生前は真面目な人だったんでしょうね」
真面目な中年男性の最後の慰めが、抱き枕だったというのはなんとも切ない。だが自分だったら何を持っていくか考えても、何も思い浮かばないのも事実だ。
(写真・文/村田らむ)