ホームレスはなぜ「ロックTシャツ」を着るのか? 取材歴20年の識者が解説

 話題の新刊がある。その名も「ホームレス消滅」(幻冬舎新書)。同書によれば、現在、全国で確認されている路上生活者は4555人。この10年で7割近く減少したという。

「新宿西口を例にとるとわかりやすいと思うのですが、1990年に東京都の新庁舎が完成したことで、いわば東京の顔という存在になりました。外国から多くの観光客が訪れることとなり、やはり段ボールハウスが軒を連ねているというのはバツが悪い。そこで段ボールハウスを撤去するとともに、ホームレスを福祉アパートに入居させるという政策が取られてきました」

 こう話すのは「ホームレス消滅」の著者でライター兼イラストレーターの村田らむ氏。同書はホームレス取材歴20年以上という村田氏のいわば集大成ともいえる作品となっている。どうしてホームレスになったか、アルミ缶の回収でいくら稼げるか、河川敷の小屋をどうやって建てたのか…。ホームレス一人一人と向き合ってきた村田氏にしか書けない“最貧困者”の現実をリポートしている。衣食住のリアルを伝えていくなかで、目についた章が《ホームレスがロックバンドのTシャツを着ている理由》だった。

 たしかにホームレスといえば、なぜか「KISS」や「MEGADETH」といった人気バンドのTシャツを着ている印象が強い。これまで気にも留めなかったが、けっしてバンド好きという理由ではないようだ。村田氏が解説する。

「ホームレスの服装といえば、個人的には、デスメタル系の黒い骸骨(スカル)が描かれたTシャツというイメージがあります。これは何も好きこのんで着ているわけではなく、その多くは支援団体から配布されたものだと見られます。じつは支援団体が炊き出しを行う際、一緒に服を配ることがあります。こうした衣料品は一般家庭から提供されたものや、なかには支援団体が、売れ残ってデッドストックになった品をどこからか調達してきたものがあります。現在のようにネット通販が普及する前は、バンドのライブツアーが終わると、記念Tシャツは売る場所がなくなってしまう。また大量の衣類は廃棄するにも費用がかかる。そのため、支援団体を経てホームレスの手に渡っていたのではないかと推察されます」

 各団体のホームレス支援において、衣類だけでなく毛布や肌着類も配布されることも珍しくないという。一方、ホームレスが直面していたのが“靴問題”だ。

「捨てられたなかから探すにしても、ジャストサイズの靴を探し当てるのは至難の業です。結果的に靴を長く履き続けることになりますが、廃品回収や炊き出し巡り、もしくは河川敷の農作業などで一般の人の何倍も歩きます。そのため、すぐにボロボロになってしまいますし、ボロボロになっても履き続けなければいけない。こぎれいな服装をしていて、見た目はごく普通でも、靴だけはくたびれている。そんなホームレスをこれまで何人も見かけました」(村田氏)

 コロナ不況がさけばれる昨今、“明日は我が身”ではないが、本書を手に取ってホームレス社会の現実に目を向けてはいかがだろうか。

(編集部)

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