ホームレス取材を続けて20年以上というライター兼イラストレーターの村田らむ氏。河川敷でペットを飼育するホームレスは少なくないが、そんなペット事情を取材中に恐ろしい目撃情報を耳にしたという。
多摩川の河川敷には多くのホームレスが小屋を建てて住んでいた。僕にとっては10年以上にわたり取材してきた、思い入れのある場所だ。
ホームレス生活をしながら動物を飼っている人も少なからずいる。犬やウサギを飼っている人もいるが、やっぱり猫を飼っている人が一番多い。中には十数匹飼っているというツワモノもいた。
ただ、飼っていると言っても、もちろん完璧な家猫にできるわけもなく、猫たちはエサを食べるために立ち寄っているという感じだ。
そんな猫をたくさん飼っているというホームレスの男性に話を聞くと、深刻な顔つきで、「2匹帰ってこない猫がいるんだよ。最近、そうやっていなくなる猫が増えてるんだ。心配だよ」と語った。猫なんて、気ままにどっか行っちゃうイメージがあるから「そんなに心配しなくていいんじゃないですか?」と慰めた。
しかしその男性は、眉間にシワを寄せて否定した。
「いや。多摩川河川敷には、猫を殺しにくる人たちがいるんだよ……」
と絞り出すような声で話す。
にわかには信じられなかった。わざわざ、河川敷にやってきて“猫殺し”などする人がいるだろうか? しかし、説明は非常にリアルだった。
「猫を殺害するジジイとババアがいるんだよ。ジジイはゴルフクラブみたいなので、猫を叩いて殺害するんだ。猫殺しババアは、そこら中に毒の入ったエサをまくんだ。もちろん2人ともホームレスじゃない一般の人だよ。ここいらで猫を飼ってるホームレスはみんなすごい警戒してるんだよ」
そう言うと、独り言のように、
「あいつら、無事だといいけど……」
とつぶやいた。
男性に話を聞いた数日後、別件の取材でこの河川敷を訪れると、ラミネート加工した張り紙が出されているのを見つけた。
『警告 この付近で猫が殺されました。警察と愛護団体が連携して見廻りをしています』
と書いてあった。
「うわ、本当に“猫殺し”がいるのか!!」
と心底驚いた。
「ゴルフクラブで殴る」にせよ「毒を撒く」にせよ、猫から人間に標的が変わる可能性がないとは言えない。
一見平和に見える、多摩川の河川敷にドス黒い悪意が渦巻いているのだと思うと、ものすごい恐怖感に襲われた。
(写真・文/村田らむ)