あぶない潜入ルポを得意とするライター兼イラストレーターの村田らむ氏。その取材テリトリーは“清掃業界”に及び、実際にスタッフとして働くことでその舞台裏を垣間見ることになった。いくら掃除してもなかなか取れない異臭の原因は、隣人にあったというのだが……。
筆者は、取材のために2年間ゴミ屋敷専門の清掃会社で働いていた。仕事を辞めて、しばらくした頃、元同僚からメールが来た。
元同僚は、40代の男性が住むゴミ屋敷の清掃に行ったという。古い1Kのアパートに、本や服がぐちゃぐちゃになって腰の高さまで積まれている典型的なゴミ屋敷だった。
清掃員にとっては見慣れた光景だ。だが、元同僚は「意外に臭いな」と思った。
男性の部屋は散らかっていてもあまり臭わないことが多い。女性のゴミ屋敷は、食べ残しが腐ったり、生理用品をためこんだりしていて、比較的臭いがキツイのだ。
ただ「まあ、とはいえゴミ屋敷だし、臭うことはあるだろう」と思い、たいして気にせずに清掃した。
だが清掃を終えても臭いは取れなかった。
清掃を終えて帰ろうとしていると、掃除の様子を見ていた大家さんから声をかけられた。
「手際良く清掃するのを見せてもらった。もし良かったら、隣の部屋もゴミ屋敷になっているから掃除してもらえないだろうか?」
と依頼された。
大家さんいわく、住人はどこかに行ってしまい、しばらく誰も住んでいないという。本来、本人以外からの依頼はNGだが、大家さん直々の依頼だし大丈夫だと判断し、後日清掃することになった。
その部屋は、先日清掃した男性の部屋に比べるとゴミの量は少なかった。ゴミ袋が部屋中に散乱していて床は見えないが、清掃をはじめたら2〜3時間で終わる量だった。
しかしゴミは少ないが、この部屋も臭った。
「電気が止まっているから冷蔵庫の中の食べ物が腐ったのかもしれない……」
などと思いながらどんどんゴミを部屋から出していると、ゴミの下から真っ黒な物体が出てきた。
それは、ここの住人であるお婆さんの変わり果てた姿、つまりミイラ化したご遺体だった。
元同僚は慌てて、警察に電話した。
ご遺体の様子から見て、お婆さんはずいぶん前に亡くなってしまったようだった。
もともとゴミに埋まるように寝ていたようで、ドアを開けてパッと中を見ただけではお婆さんが亡くなっていると気づかなかったのだ。
肉体は腐ると強烈な臭いが出るから、嫌でもわかる。だが一番に気づくはずの隣の住人はゴミ屋敷だった。臭いには気づいていたが、自分のゴミが腐っているせいだと思いこんでしまった。しばらくすると臭いは薄れていき、そしてご遺体の発見が大いに遅れた。
結局、警察によるご遺体の運び出しには数時間かかったという。
清掃会社は特殊清掃(人が亡くなった部屋の清掃)も引き受けていたため、運び出しが終わった後はそのまま清掃することになった。
「なんともいたたまれない気持ちで掃除しました」
と元同僚のメールには書いてあった。
(写真・文/村田らむ)