「事故物件の家主は虫やネズミに食べられて」松原タニシが語る“食”と怪談

 食べ物は幽霊よりも恐い!? 6月26日に発売された松原タニシの最新刊「恐い食べ物」が話題になっている。富士の樹海や特殊清掃の現場などを取材してきたライター兼イラストレーターの村田らむ氏が著者に話を聞いた。

「事故物件住みます芸人」の松原タニシさんが、新刊「恐い食べ物」(二見書房)を出版した。

 タニシさんと言えば映画にもなった「恐い間取り」を始めとする事故物件や心霊スポットについて書かれた単行本が頭に浮かぶ。しかし、今回のテーマは“食べ物”だ。意外だと思った人も多いだろう。なぜ、食べ物というテーマに行き着いたのだろうか?

「去年、16軒目の事故物件を借りました。ゴミ屋敷状態だったんですけど、家主である男性はそこで亡くなってしばらく放置されていたみたいです」

 部屋の中には、なぜかこんもりと土があった。

「家主は亡くなった後、2年間放置されていたらしいんです。放置された死体は、虫やネズミに食べられて、食べ残しや糞はバクテリアに分解され、最終的に土になったんだと思います。つまりその土は事故物件の家主だったんですね」

 その土が家主だと気づいた時に、タニシさんは「ああ、こうやって僕も最終的に食べられるんだな。そして食べられて土になる」と普段は何も考えずに食べている食べ物のこと、食物連鎖について深く考えたという。

「そしたら怖くなりました。自然の摂理って恐いって思って……。普段は何も考えずに食べてますけど、食べるってとんでもない数の生命を殺して生きてるわけじゃないですか。“生きている方が強い”っていうマウント取りながら生きてるってことになりますよね」

 本書には、青木ヶ原樹海で死体を探すのが趣味の男性とタニシさんが、一緒に樹海を散策した時のエピソードが登場する。その男性は死体を目の前にすると、おもむろにカバンから焼きそばパンを出して食べ始めた。

「僕は死体を見た段階で食欲がなくなってしまいました。喉を通っていかない。その男性がなぜ死体の前で飯を食べたのか、本人は明確には答えてくれないんですけど、僕は死体に対してマウントを取っているんだと思います。『お前は死んでるけど、俺は生きているぞ』っていう、最強のマウントですね。除霊の現場を見させてもらったこともあるんですけど、巫女さんが『あんたら死んでんねん!!』って悪霊に言ってたんです。『生きてる方が強いんだ!!』ってマウントをとってるんです。でも今は生きていても、いつかみんな死ぬ。僕も死んでいつかマウントを取られる。実際に死体を目の当たりにすると、そんなに怖くないですね。自分がこういう姿になるのは嫌だな、とは思いますけど、恐いものじゃない」

 事故物件に残っていた土はかき集め、捨てずに取っておいたという。

「『何かこの土を活用できないかな?』って考えて、作物を育ててみることにしました。死体からできた土で育った物を食べたら、生き物の循環を感じました。ある意味、輪廻転生ですよね。不思議と気持ち悪さはなかったですね」

 もっと身近でドロリとした恐い話も収録されている。

 たとえば“ポーチドエッグ”の章では、優しくていつもポーチドエッグを作ってくれる祖母が、内心では“支配するため”に食べ物を使っていたという気が滅入る話が綴られている。タニシさんが、寝ている時に意識がないまま食事をしてしまう“寝食べ”について、病院に入院し真相を探るという、自身を探るエピソードもある。

 本書には、食べ物という怪談としては珍しいテーマにもかかわらず、幅広い話が収録されていた。

 現在も、大阪と香川に借りた事故物件に住んでいるというタニシさん。そちらの恐いエピソードも収集し続けているという。事故物件に住みながら書き上げた「恐い食べ物」、この夏におすすめの1冊だ。

(村田らむ)

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