JR東日本が2021年春のダイヤ改正から、山手線や中央線など東京駅から100キロ圏内の路線で、最終列車の運行時間を30分程度前倒しすることを発表したのは、2020年9月のこと。首都圏の主要路線で一律に終電時刻を早めるのは、1987年のJR東日本発足以来初めてとなるが、
「JR東日本はその要因を、新型コロナウイルスの感染拡大を契機とした利用者の行動様式への対応と説明していますが、テレワークの普及の影響などもあり、2020年8月の山手線での深夜帯利用客は前年同月の3分の1に激減。おかげで、2020年4~6月期の連結決算では1553億円の最終赤字を計上するなど、四半期で過去最大の赤字に転落しました。そのため、なんとしてもコストダウンが必須課題になった。終電を繰り上げれば、深夜の保守作業員の負担軽減やコスト削減にも繋がりますからね。同社としてもやむを得ない決断だったと思います」(経済ジャーナリスト)
ただ、JR東日本が「終電繰り上げ」に踏み切ることで、JRと連動して乗り換えダイヤを作成する各私鉄も、追随するように終電を早めることを決定。東京メトロも、春のダイヤ改正で東西線、丸ノ内線、千代田線など9路線すべてで終電時刻の繰り上げを発表している。
都心のオフィス街で苦戦を強いられてきた飲食店にとって、この終電繰り上げは大逆風となりそうだが、東京最大の繁華街、新宿を走る中央線快速も、新宿〜高尾間で終電が29〜30分程度繰り上げとなる予定だという。
新宿で居酒屋を営むオーナーが困惑した様子でこう語る。
「新宿でも、いわゆる1次会の会場となるレストランや和食、中華店はさほど被害はないかもしれませんが、うちのように2次会、3次会で利用される中小の居酒屋やバーなどは、ダイレクトに打撃を受けるんじゃないでしょうかね。特に3次会は終電が早まれば『電車もなくなるし、帰ろうか』となることは間違いない。これじゃ、強制的に時短営業させられるようなものですよ」
客だけではない。飲食店に電車通勤をしている従業員は、閉店後の後片付け作業も考慮しなければならなくなった。
「いくらなんでも、毎日タクシーで返すわけにはいかないしね(笑)。そういったことを考えると、結果、ラストオーダーを前倒しするしかない。外部の人間は『たかが30分でしょ』と言うかもしれないけど、私らにとってこの30分がどれだけ大きな痛手となるか……。また、廃業する店が増えるんじゃないでしょうかね」(前出・オーナー)
一部では、電車のかわりに、タクシーや夜行バスの需要が増え、ネットカフェやカプセルホテルなどの簡易宿泊施設も繁盛するのでは…という希望的観測もあるが、
「人間の心理として、終電を気にしてまで飲みに行きたい気持ちになるかということ。仕事帰りにチラッと飲んで、それでお開きというのがパターン化して、うちのような小さな個人経営の店に客が流れてくるかどうか…。コロナ禍が収束した後も、それが当たり前になったら『そろそろ潮時かなぁ』なんて思ったりもしますよ。実際、周囲では『店を閉める』という声も聞かれ、このままいけばゴーストタウン化するかもしれませんね」(前出・オーナー)
かつては「アジア随一の歓楽街」、「不夜城」とも称された新宿。終夜営業で少なくなった客を奪い合うことになるか、それとも撤退するか…。2021年は「夜の街」にとって、さらなる試練の年になるかもしれない。
(灯倫太郎)