東京を中心に、全国的に拡大の様相を呈している新型コロナ禍。これははたして本格的な「第2波」の予兆なのか。だが「その時」が来ても、入院する病院がなくなってしまうとしたら—。コロナ医療を襲う「怒りのクーデター」が爆発しようとしている。
東京都内の新型コロナ新規感染者数が286人を記録した7月16日の夜、それでも安倍内閣は「GoToトラベル」キャンペーンのゴリ押しを発表した。専門家会議で副座長を務めた、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会・尾身茂会長が同日、「感染がどんどん拡大していると判断されれば、今の段階で全国的なキャンペーンをやる時期ではない」と発言。連立与党の公明党や小池百合子都知事(68)、吉村洋文大阪府知事(45)をはじめ、各県知事からも慎重・反対論が出る中での強硬策だった。医療崩壊が叫ばれる今、現場はどうなっているのか。
「コロナ患者の受け入れには余裕がある、という一部の医師の証言や行政の発表はウソです」
こう断言して憤るのは、さる大学病院のコロナ病床担当教授である。
「東京都は無症状者や軽症者を受け入れるために都内の宿泊施設を借り上げていましたが、その費用は3億円とも5億円とも言われ、一時、撤退していました。そこで東京都は都内医療機関にコロナ専門病床の確保を要請しましたが、空いたベッドに対する国からの補償額は1日1万6000円。重症者が搬送される集中治療室(ICU)の補償額は30万1000円です。一見、高いようで、そのベッドに日帰りや1泊2日の心臓手術患者を入院させていれば診療報酬は1日120万円を下らない。行政に協力してコロナ病床を確保すればするほど、病院経営は赤字の一途をたどります。それなのに、4月や5月の時点では病院に搬送されなかったような無症状者、軽症者も(宿泊施設がないため)コロナ専門病床に入院してもらっているのです」
東京都医師会の猪口正孝副会長は7月10日の記者会見で、こう言及した。
「民間病院が経営の危機を乗り越えようとしている時に、都立・公社病院は民間と同じ働きをすればいいことにはならない。都立・公社病院に頑張ってほしいというのは都民、医療人全員の思いだ。できれば(コロナ専門病床を)2000床くらい持ってほしい」
具体的な数値目標まで挙げ、「コロナは公立病院で診てくれ」と言わんばかりのイラつきぶりだった。
東京都医師会がここまで踏み込んだ発言をするのは、都内の重症患者を引き受けるはずの大学病院で「異変」が起きているからだ。
感染症指定医療機関でもないのにコロナ重症患者を受け入れてきた東京女子医科大学病院では今月、看護師400人以上が依願退職を申し出た。コロナ蔓延に伴い一時休診、診療業務を大幅に縮小。結果、給与の減額に加え、減額分を補填するための賞与も全額カット(その後、支給を検討中)で、奨学金の返済もできなくなった若手看護師を中心に、生活の危機に追い込まれているのだ。
女子医大病院OBが内情を明かす。
「女子医大病院は他の大学病院と比べて勤務医と看護師の給与水準が低く、一人前になるまで耐え忍んだ看護師が勤続3年を経過すると一斉に退職していくという、看護師定着率の悪さで知られています。ただでさえ低水準なうえに減額、賞与なしでは生活が成り立ちません」
それでも病院側は労働組合と職員たちに対し、強気の姿勢を貫いている。このOBが続けて言う。
「経営陣のバックには、実母が東京女子医大出身で強力なコネを持つ自民党・二階俊博幹事長(81)がついている。二階氏は国内でコロナが蔓延し始めた今年2月、女子医大が1000億円を投じて建設した研究棟の竣工式に参列し、感染症専門病院でもないのに、東京女子医大関係者を『新型コロナ対策の専門家』として党の会議やヒアリングに呼びつけている。経営陣は病院経営と労務問題がいくらこじれようとも、厚労省や文科省から処分は下らないと確信しているのでしょう」
依願退職を申し出ているのは看護師だけではない。女子医大関係者が嘆く。
「医師や技師も、コロナ患者の治療にあたった職員に支給される報奨金を受け取りしだい、集団離反するとみられます。ただでさえ感染症の専門病院ではないので、慣れていない。それが熟練した医師、技師、看護師が去ったあとに重症患者を受け入れ、無理に人工心肺を回すことにでもなれば、これまで60人以上の子供が死亡している心臓手術事故、麻酔事故に続く大惨事が起きかねません」
人工心肺や人工呼吸器、そして新型コロナで注目された人工肺(ECMO)は、万が一、患者につないだ管が抜けることがあれば、患者は即死。このため常時、装置を見張る医師、装置を扱う技師、患者の呼吸状態を診る医師、看護師が必要になる。大学病院教授によれば、
「当初は慣れていなかったこと、感染症という特別な事情もあり、ECMO装着患者1人にスタッフ20人がかかりきり。1日3交代で60人を必要としていたのです。その60人が皆、コロナに感染しやしないかと、神経をすり減らしていた」
今まさに懸念されるのは、こうしたICU職員の戦線離脱である。
院内感染で一時期、業務を大幅に縮小した東京慈恵会医科大学病院や慶應義塾大学病院でも、夏の賞与と報奨金を受け取ったあとの集団退職が持ち上がっており、
「コロナ医療者への世間の差別、風当たりがツライので、コロナが落ち着くまでの休職を考えている看護師は少なくありません」(慶應大病院の職員)
慈恵医大病院のナースも困り果てた様子で、
「一時期よりは患者さんが戻ってきましたが、第2波でまた休診となれば、給与が保証されるかわからない。コロナに感染しているおそれもあるので、ダブルワークもできず・・・・」
コロナによる医療崩壊が現実のものになろうとしている。