北朝鮮の金正恩総書記が、これまでになく強気な姿勢を見せている。
トランプ米大統領が金総書記に宛てた書簡の受けと取りを、北朝鮮側が拒否していた――。これは6月11日、北朝鮮専門サイト「NKニュース」が消息筋の談話として報じたものだ。
記事によれば、この書簡はトランプ氏自身が対話再開を目的に草案を作成。トランプ氏側が、直接ニューヨーク駐在の北朝鮮外交官を通して渡そうとしたようだが、同外交官は受け取りを「断固拒否」したというのだ。
報道を受け、レビット大統領報道官は同日の記者会見で、「大統領は金正恩との書簡のやりとりに引き続き前向きで、シンガポール首脳会談で得られたような進展を見ることを望んでいる」とコメント。詳細について言及しなかったものの、報道を否定しなかったことから、おそらくは国連代表部を通じ、米朝間の非公式ルート「ニューヨーク・チャンネル」を活用しようとしたものの、あえなく袖にされてしまったというわけだ。
北朝鮮情勢に詳しいジャーナリストが語る。
「周知のように現在、北朝鮮はロシアと蜜月な関係にあり、これまで子飼い扱いされてきた中国に対しても強気の姿勢を見せています。トランプ氏とは前政権時代に訪朝などで、関係が深まりかけた時期もありましたが、結局決別し、以降は交渉は途絶えたまま。トランプ氏としてはウクライナ問題、ガザ問題に次ぎ、北朝鮮の核問題も最重要課題。一日でも早く接触を図りたいところですが、ロシアべったりな金氏は現時点でトランプ氏と会うことにあまり魅力を感じていないとも言われています。つまり、18年や19年当時に比べ、正恩氏はトランプ氏をあまり必要としていないということです」
とはいえ、北朝鮮としても、いずれかのタイミングで米国との対話と交渉を再開したいとの思いはあるはず。いまはトランプ氏をじらしている、といったところかもしれないが、そんな正恩氏の強気な姿勢を増長させているのが、韓国の新大統領による「太陽政策」への方向転換だというのだ。
「昨年10月、韓国の脱北者団体が飛来させた風船をきっかけに始まったのが、南北の軍事境界線付近の街での両国による大音量での『騒音放送』。ところが、11日午後、突然韓国側がこの放送を停止。するとそれに歩調を合わせるように北朝鮮側も同日深夜になり、大音量での騒音放送を停止したんです。北朝鮮向けの拡声器放送は尹錫悦(ユン・ソクヨル)前政権が昨年、6年ぶりに再開したものですが、結局、再開から1年で中止されることになったというわけです」(同)
さらに翌12日には、韓国の新大統領に就任した李在明(イ・ジェミョン)氏が、2000年に実現した「南北首脳会談」記念式典に寄せた祝辞で、「(北朝鮮との)消耗的な敵対行為を中止し、対話と協力を再開する。『朝鮮半島リスク』を『朝鮮半島プレミアム』に変えよう。その道が南北双方のための道」と訴えたのである。
「文在寅政権時代は、何がなんでも北朝鮮と仲良くしたいと、正恩氏を下にも置かない歓迎ぶりだったものの、尹氏の大統領就任で、正恩氏は民族の悲願としてきた南北統一を一方的に放棄。ついには韓国を『第1の敵対国』と位置づけ、平和的統一は望まないと宣言するに至った。一方、新任の李在明氏は文在寅の再来と言われ、反日、親北を掲げてきた人物。北朝鮮とロシアとの蜜月で、日米韓が連携がさらに重要になったこの時期、なぜ、いま太陽政策に舵をきったのかはわかりません。ただ、韓国政府関係者の間からも、これでは金総書記に思い通りになってしまう、といった懸念の声が上がっているようです」(同)
大統領が変われば政権もがらりと変わる韓国。「文在寅の亡霊」復活で金総書記の高笑いが聞こえてくるようだ。
(灯倫太郎)