9月の金正恩総書記の訪露以降、中国と北朝鮮との間に微妙な距離感が生まれている。
北朝鮮がこれまで外貨獲得や物資調達の拠点としていたのが香港だが、北朝鮮はその香港総領事館を閉鎖すると中国側に通知した、と27日付の読売新聞が報じた。
記事によれば、情報源は「北朝鮮の内情に詳しい関係筋や外交筋」とのことだが、撤退理由は現地が物価高になり維持が困難になった、つまり財政難によるもので、今後は中国在住の北朝鮮貿易商らが代行する可能性があると報じている。
北朝鮮はすでにアフリカなどの在外公館十数カ所を閉鎖、撤収する方針を打ち出しており、23日のウガンダメディア『インディペンデント』では、駐ウガンダ北朝鮮大使のチョン・ドンハク氏が、同国のムセベニ大統領を最後の挨拶のため表敬訪問したと報道している。
「北朝鮮とアフリカ諸国とはかねてから友好関係にあり、2014年までは、北朝鮮がアフリカのほぼすべての国と国交を有していたことはよく知られる話。そのため、アフリカの国の中には、国連の北朝鮮制裁決議に反対の立場をとる国も少なくない。中でもウガンダは、東アフリカ内陸諸国の物流網の要衝です。習近平が掲げる『一帯一路』の最重要拠点でもあり、グローバルサウスの取り込みに必死な中国としては、このタイミングでの北朝鮮の公館撤収はおもしろくないのでは」(アジア情勢に詳しいジャーナリスト)
香港は現在、政治的にも完全に中国の傘下にあり、2020年には北朝鮮の李善権外相が中国大使と会談した際、「香港問題は中国の内政問題で、外国の干渉は主権を損なうものだ。北朝鮮は中国共産党と中国政府が主権、安全、領土を守ることを積極的に支持する」と、中国の香港政策を全面的に支持していた。なので北京の大使館があれば香港に領事館は必要ないとの見方もできるが、
「むろんその発言の裏には、北朝鮮がこれまで通り外貨獲得と物資調達拠点として香港を活用できるよう便宜を求める意図があったはず。その司令塔となっていたのが香港総領事館だったわけですからね。そんな重要な窓口を財政難という理由だけで、はたして閉鎖することなどありうるのか。この点だけとっても、北朝鮮の中国との距離の取り方に微妙な変化が現れていることをうかがわせます」(同)
北朝鮮の崔善姫外相は28日、日米韓3カ国が発した北朝鮮によるロシア軍事支援への非難声明について、「朝露関係への無根拠な非難は国際法の侵害。誰が何と言おうと2国間関係を全面的に拡大し発展させることで、新時代の朝露関係を構築しようとするのが我々の確固たる意志だ」と強い口調で訴えた。
この「誰が何を言おうと」発言の「誰が」には、聞きようによっては西側だけでなく中国も含まれている可能性もあり、北朝鮮の急速な親露シフトが注目されるのだ。
(灯倫太郎)