トランプ政権の発足から1カ月が経過したが、諸外国には動揺や混乱が広がっている。デンマーク領グリーンランドやパレスチナ・ガザ地区の保有、欧州やウクライナを無視した形でのプーチン大統領への接近、毎日のように示唆されるトランプ関税など、諸外国はその動向に追われている。トランプ大統領が一国主義的な姿勢を鮮明にすることで、日本でも米国が以前の米国ではなくなってきているとの見方が広がっている。確かに、米国が閉鎖的になっているのは事実だ。
しかし、ここに大きな勘違いがある。米国がおかしくなってきているという発想は、おそらく戦後の米国の姿を意識してのものだろう。第2次大戦で戦勝国となった米国は、その直後から生じたソ連との45年にわたる冷戦にも勝利し、1990年代には米国を超大国とする一極構造の世界が訪れた。
当時、米国は世界の総軍事力の半分以上を単独で占め、政治や経済、文化などあらゆる領域で米国流の制度や価値観が世界中に広がっていった。グローバリゼーションと呼ばれるものだが、実際はアメリカナイゼーションと呼ぶほうがふさわしいだろう。今世紀に入って中国が急速な経済成長を遂げ、近年では米中競争が激しくなっているが、米国が依然として圧倒的な国力を持っているという状況は変わらない。
多くの日本人がイメージするのは上述のような米国であり、トランプ政権になって米国が閉鎖的になってきていることに違和感や危機感を感じているのだ。しかし、トランプ大統領がやろうとしているのは何も例外的なことではなく、本来の米国の姿に回帰しようとしているだけなのだ。
米国の建国から今日までを振り返ると、米国は1776年の建国から1940年あたりまで、一貫して自らの国益のみを重視する一国主義、外国と同盟関係を組もうとしない非同盟主義、外国の紛争には介入しない非介入主義に徹してきた。要は、多くの日本人がイメージする大国としての米国は、歴史的には例外的な姿であり、トランプ大統領は伝統的な米国に戻す道をただ歩んでいるだけなのである。
中国による海洋進出、北朝鮮とロシアの軍事的接近など、日本の安全保障環境は厳しさを増すばかりで、日本としては大国米国がどうしても必要となるので、トランプ政権の発足で米国がおかしい方向に向かっているとの判断が先行する。しかし、それは米国の外交史的視点から言えば大きな誤りなのだ。米国は普通の米国に戻ろうとしているだけである。
(北島豊)