山中伊知郎「あなたの知らない“原価”の世界」日本人には不可欠! ダシは「一物全体食」そのもの!

【今回のお値段「出汁」:材料原価400~500円前後(市販昆布 500グラム3000円前後)】

 魚や肉、野菜、キノコ、海藻など、食品を煮出して作る「ダシ」は、もう世界中にあるが、中でも日本料理では、ダシが味を決めると言ってもいいくらいに重要な要素になっている。毎朝の食卓に欠かせない味噌汁をはじめ、そば、うどんのつけ汁、鍋もの、煮物などなど、利用範囲は多岐にわたる。

 さらに、ある事情通によれば、

「健康食品としての需要が飛躍的に高まっていますね。例えばカツオダシには血流を改善して疲労回復に効果があるアミノ酸・ヒスチジンなどの物質が含まれる上に、たんぱく質やビタミンDもたっぷり。昆布ダシなら脂肪をたまりにくくするアルギン酸が含まれる上に、ミネラルも豊富です。このカツオと昆布のダシをミックスした合わせダシは両方の特徴を残したまま、うま味成分がアップします」

 たとえ減塩してもうま味は減らないというのだから、高血圧で悩むオジサン族にはありがたいものだ。

 最も一般的なダシ商品は、顆粒タイプなら大手食品メーカーが提供するような、500グラムで500~1000円前後のものだが、「健康」をセールスポイントにした場合、やはり小売値は少なくとも2000~3000円以上にはなる。

 まず大量生産品なら普通に使われる化学調味料、うま味調味料を使わないところが多い。それらは少ないコストで味を調えるのには欠かせないのだが、過剰摂取による健康に対する弊害も生まれうるからだ。

 そこで原材料に添加物をまじえず煮出して作るとして、かつお節、かたくちイワシ、しいたけ、昆布、ニンニクなどを原料とし、小売価格3000円前後の商品があるとすれば、まず材料原価に400~500円程度はかかる。煮出した後にフリーズドライ製法で液状のものを粉末にするなどの加工費用も含め、製造原価全体は800~1000円くらいか。

 これをメーカーは1600~1800円程度で販売店に卸し、消費者に渡ることになる。

「最近は“一物全体食”と言って、魚でも野菜でも、端っこを捨てたりしないで丸ごと全部食べた方が、その食品の持つ栄養を全部摂取できるし、食品ロスも減らせて環境にも優しいって言われてますよね。ダシはまさにそれ。魚でも骨も皮も含めて、1本丸ごと使えますから」(前出・事情通)

 一口にダシと言っても、昆布だけでも何種類も掛け合わせたような、100グラム1000円以上もする高級ダシもあれば、家で作ってずっと使い続けているような自家製のダシまで、その種類は様々だ。それでも「ダシ抜き」の味気ない食事は、緻密な味覚を持つ日本人にはムリなのだ。

山中伊知郎(やまなか・いちろう)やまなか・いちろう 鍋物を作るなら、やはり昆布ダシが一番好き。具を全部食べた後、最後に役割を終え、味が沁みて柔らかくなった昆布を食べる時、幸せを感じる。

マネー