大相撲3月場所で新入幕・尊富士の初日からの連勝を11で止めた大関・豊昇龍。大関陣の不甲斐ない相撲が続く中、申し分のない一番だった。
尊富士が立ち合いから左を差して一気に前に出ると、豊昇龍は体を開きながら、右からの小手投げで投げ捨てた。
大関として初優勝を目指す夏場所。横綱になるには苦手を作らないことが必須だが、豊昇龍には今のところそんな相手はいない。ただ、気になる力士として「(けがをしている)尊富士出るかな。出てきたら楽しみ」と、春場所で主役になった尊富士を指名。“潰してやる”と言わんばかりの闘志なのである。
相撲ライターが言う。
「叔父の朝青龍を思い出しますね。彼は有望な新人が出てくると、わざわざ相手の部屋に出かけて行ったり巡業先で、稽古相手に指名するんですよ。そして、ガンガン稽古するんです。そうやって本場所で対戦しても力を出させないように準備するわけです」
そのあたりは相撲界の常識。大鵬、千代の富士、白鵬しかりである。叔父さんに教えてもらわなくても、本人は十分わかっているはず。尊富士に主役の座を渡すつもりはない。
「春巡業でも豊昇龍は意欲的に稽古していました。普段、稽古場では20~30番稽古するが、春巡業では大栄翔を指名して三番稽古(同じ相手と連続して稽古すること)していた。この巡業に尊富士は不参加だったため手合わせできなかったが、今後は2人の三番稽古が見られるはずです」
ライバル同士の激突。本場所での丁々発止の一番もいいが、泥臭くぶつかり合う稽古も見ごたえがある。それが巡業の楽しみ方のひとつである。
(蓮見茂)