実は選挙戦略だった!? インドが国名を「バーラト」に変更したい理由とは

 国連経済社会局の人口部により、今年4月、人口が中国を抜いて14億2577万5850人に到達したとの推計が発表されたことで世界一となったインド。

 インドはさらに、8月には、無人の月面探査機「チャンドラヤーン3号」で、世界初となる月の南極付近への着陸に成功するなど、いまや宇宙開発分野でも米中を脅かす存在となった。

 そんなインドで今、その「名称」を巡り、さまざまな憶測が広がっているという。

 ことの起こりは9月9日にインドのニューデリーでスタートしたG20サミットの開会式だった。インドのモディ首相の前に置かれた「名札」に「バーラト」と書かれており、招待状や議長席のプレートにもインドの国名が「バーラト」と表示されていたのだ。これにより、各国首脳の間からも、国名変更への布石なのではないか、との声が続出していたというのである。インドの歴史や文化に詳しいジャーナリストが解説する。

「そもそもサンスクリット語の『Sindhu』に由来する『インド』という言葉は、『インド川』を指すもので、それが欧州に伝わる中で、ギリシャ語の『Indu』になり、英語の『India』として定着するようになったんです。つまり、インド人にとっては外来語なんですね。一方、『Bharat』(バーラト)はヒンディー語の国名なので、かねてから多くのインド人たちが、バーラトと自称してきました。ただ、インド憲法ではどちらも同義語で、インドはバーラトである、と明記してきたこともあり、国民も両方を使っている、という背景があるんです」

 ヒンズー至上主義を掲げる、モディ首相率いるインド人民党(BJP)は、「1つのバーラト、偉大なバーラト」をスローガンに、これまでにも英統治下の建物の名称や地名などの現地語変更を積極的に推進してきた。

「実は、インドでは今年7月に、その名もずばり『INDIA』という野党連合が発足したこともあり、モディ政権としては、来年の総選挙に向けて野党に対抗する『実績』がほしい。そんな思惑もあり、G20で名称のプレートに表示し、既成事実を作ることで『バーラト』の浸透を図ったのではないかとみられています」(前出・ジャーナリスト)

 国名変更は、選挙戦に向けた戦略とも取れなくもないというのだが、インド国民の8割がヒンドゥー教徒であることを考えると、「バーラト」を使うことに、大きな意味があることもまた事実のようだ。

「ただ、町や建築物の名称を変えるのと、国名の変更とでは、話のレベルが違う。かつてはセイロンがスリランカに、マラヤがマレーシアに国名を変えたことはありますが、発展途上の小国ならまだしも、今年は人口で中国を抜き、宇宙探査機による月面着陸にも成功するなど、今やIT大国と言われ、世界から注目される国ですからね。そうすんなりとは行かないでしょう」(前出・ジャーナリスト)

 22日まで行われる特別国会で国名に関する審議が行われるというが、はたしてその行方は…。

(灯倫太郎)

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