「一帯一路」構想から10年、36兆円の投資が生み出した「天国と地獄」

 2013年秋に習近平政権が巨大経済圏構想「一帯一路」を提唱して、ちょうど10年を迎えた。
 
 そこで、仕事で付き合いのあった中国人の言葉を、ハタと思い出した。
 
 当時の中国人は「中華民族の復興」を掲げた習近平主席の言葉に自信をみなぎらせていた。中国の未来を、最も王朝が栄えた明代の宦官・鄭和が大艦隊を率いてインド洋を超え、アフリカ大陸まで大航海したことに重ねて、「中華の勃興が始まった。これからは世界が中国に学ぶべきだ」と上から目線で胸を張ったものだ。
 
 だが、「一帯一路」構想から10年に当たる10月16日、日本のメデイアは中国人のそんな驕りを打ち砕くかのように「かすむ威光」「債務拡大で自らも打撃」「中国の危険な浸食を許すな」などと厳しい論調で報道した。

 これに先立ち中国は10月10日、「一帯一路の共同建設 人類運命共同体構築の重大な実践」との白書を発表、一帯一路がいかに世界に貢献しているかをアピールしている。
 
 それによると、152ヵ国、32の国際機関と200件以上の共同建設文書に調印、対外直接投資は2400億ドル(約36兆円)を超えたという。
 
 インフラ整備が進み、雇用を生み、大きな「成果」があったというわけだが、中国資本がなだれ込んだマレーシアやカンボジアの街が今どうなっているかというと、タワーマンション群は買い手が集まらずゴーストタウン化し、投資が止まった高層ビル群は工事途中で放棄されゴーストビル化している。
 
 いち早く一帯一路への参加を表明したスリランカは、2017年に債務返済が不能となって、返済する代わりに同国の物流経済の拠点であるハンバントタ港の運営権を99年間、中国へ譲るハメになったことはあまりにも有名な話だ。
 
 莫大な融資を受けたものの、返しきれず施設や土地の権利を明け渡すことを「債務の罠」と呼ぶが、これはスリランカ経済が中国に首根っこを押さえられたという典型例である。
 
 中国とインドは毛沢東が1949年に中華人民共和国を建国した時から犬猿の仲だった。カシミール地方をめぐって互いが自国領と主張したからだ。現在も両国の対立は鮮明で、一帯一路に対してもインドは不支持だ。
 
 つまり、中国にとってインド洋上にあるスリランカは、欧州や中東とを結ぶシーレーン(海上交通路)上、不可欠な要衝であり、世界から「債務の罠を仕掛けた」と非難されようが、それを承知で「国益」を求めたわけである。
 
 一帯一路プロジェクトの具体的な契約には不明の部分が多く、他の国でも「隠れ債務」が指摘されている。いずれイタリアのように一帯一路からの離脱を示唆したり、現実に脱退する国も出てくるだろう。
 
 ここで大事なことは、中国にかきまわされっぱなしだった主要先進国の米欧日が、世界を牽引する投資政策を打ち出せるかどうかである。流動化する国際情勢の中で、国際秩序の主導権を握るためにはグローバルサウスと呼ばれる新興国や途上国からの支持が欠かせない。

 G7主要7ヵ国は2022年に途上国支援の新たな枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」を発表した。5年間で6000億ドル(約90兆円)を拠出して、気候変動やデジタル技術などに投資する。莫大な借金を負わせてインフラ整備して、評判ガタ落ちの中国といかに差別化するかがカギとなる。

(団勇人・ジャーナリスト)

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