昨年11月に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験を視察した金正恩総書記。北朝鮮の朝鮮切手社が14日、その際の写真を使い、新たに発行する8種類の記念切手デザインを公開。うち5種類の切手に娘のキム・ジュエ氏を写した画像が使用されている。
切手にはミサイルをバックに、父・正恩氏とジュエ氏が手をつないで歩くカットのほか、腕を組んだ2人のカット、さらに多くの兵士の前でにこやかに記念写真に臨む2人の姿などがあしらわれており、「朝鮮の戦略的かつ絶対的な力を全世界に誇示」「不敗の核強国の威容を満天下に示す」といったキャプションが添えられている。
昨年11月に突然公の場に姿を現したジュエ氏は、ここ数カ月の間に度々登場。しかも、今回は正恩氏と一緒に記念切手に収まっていることから、多くの韓国メディアが「ジュエさんの偶像化に努めている可能性が高い」と伝えている。
だが、北朝鮮の専門家の中には「いくらなんでも、現時点で10歳前後の娘を後継者として位置づけ表に出す意味はない」と、偶像化説に疑問を示す者も少なくない。
「というのも、正恩氏の父である金正日氏が正式に後継者として指名されたのが30歳の時。正恩氏は父親が脳卒中で倒れたこともあり、少し早まって24歳の時ですが、それでも公式の場に登場したのは翌年、25歳で行われた党代表者大会でした。つまり、今の段階で10歳かそこらの娘をお披露目するには、いくらなんでも早すぎるということです」(北朝鮮ウォッチャー)
しかも通常、独裁国家が後継者を表に出すということは、独裁者の健康不安をアピールしてしまうリスクがある。本人が病床に伏せると「影武者」を立て、政治の混乱を防ぐという手段が用いられることさえあるという。つまり、独裁者が健在でいる限り、後継問題はいわば最大のタブーというわけである。
「韓国国家情報院の情報によれば、金総書記には3人の子供がいて、第1子は男の子だとされています。これが事実であれば、よけいに10歳前後の次女を後継者に指名する理由は見当たらない。そう考えると、このジュエ氏過剰露出の裏には、別の大きな事情が考えられるというわけです」(同)
専門家の中には、その理由として「幼い娘を軍事関連の場所に連れていくことで、ミサイルや核開発を次世代に対し正当化する意味合いがある」との指摘もあるが、それを演出しているのが、現在の実質NO.2と言われる金与正朝鮮労働党副部長ではないかというのだ。
「これまで正恩氏あるところ、必ず近くには与正氏の姿があった。ところがジュエ氏登場以降、彼女の立ち位置が一歩下がったというんです。その姿が、まるで舞台袖から演者を見守る演出家のように見えることからそんな噂が広まったようですが、韓国の専門家の間では、ジュエ氏は後継者などではなく、単なる広告塔ではないのかという説も浮上しています」(同)
謎が謎を呼ぶジュエ氏お披露目騒動だが、さて真相のほどは…。
(灯倫太郎)