ロシア極東の地、アムール州でプーチン大統領と首脳会談を行った北朝鮮の金正恩総書記が14日、特別列車で次の目的地、ハバロフスク地方コムソモリスクナアムーレへ到着した。15日にはスホイ戦闘機の製造工場を視察し、帰国前にはウラジオストクにあるロシア太平洋艦隊を視察する予定だと見られている。
今回のロシア訪問には専用列車「太陽号」が使用されたわけだが、正恩氏は、今回の訪露を含め過去8回の外遊のうち5回を鉄路で移動。2019年2月にベトナム・ハノイで行われたトランプ大統領との会談の際には、なんと中国を縦断し65時間もかけて鉄路移動していた。
「外国訪問に専用列車を利用するのは、祖父の金日成主席時代からの伝統で、父の金正日氏も極度の飛行機嫌いだったため、中・露訪問は全て鉄道を使用していました。『太陽号』は古めかしい外見とは異なり、内部には最新鋭の通信装備や、攻撃に備えた迫撃砲も搭載。床には防弾用の鉄板が敷き詰められ、動く要塞さながらです。ただ悲しいかな、電力難のため、北朝鮮では列車を速く走らせることができない。今回も10日午後に平壌を出発し、ロシア国境のハサンに入ったのが12日未明だと言われますからね。ハサンまで約850㎞。つまり、ロシア入国まで丸1日以上かかったということになります」(北朝鮮ウォッチャー)
報道によれば、正恩氏の専用列車の最高時速は60キロほどだとされるが、これは保安上の問題だけでなく、防弾仕様のため列車が重すぎるのと、中朝国境の保線状況、それに電力インフラの脆弱さが影響しているとみられている。
「北朝鮮の供給電力が逼迫していることは紛れもない事実で、かつて豊富な石炭と世界最大級と言われた水豊ダムを擁した北朝鮮は、故金日成主席時代に経済発展の柱として鉄道の電化工事が急ピッチで進められ、北朝鮮における鉄道の電化率は80%にも達しました。ところが、深刻な経済難により電力不足が加速。さらに、燃料不足と発電施設の老朽化で頻繁に停電が発生し、鉄道マヒが起こるようになってしまったのです」(同)
列車の遅延や運航停止などは日常茶飯事で、過去には大雪で列車が立ち往生し、暖房がストップしたため乗客が凍死したケースや、なかには車内に長時間閉じ込められたため、餓死するといった信じられない事件まで発生しているという。その原因が自然災害だけでなく、あまりにも性急に鉄道電化を進めたがために起こった弊害だというのである。
「特別列車が通る数日前には鉄道省から通知があり、駅の徹底した清掃や駅舎のペンキの塗り替えも指示されるのだとか。さらに鉄路は特別列車が通過する1本だけにポイントを固定し、党幹部がそれを点検するそうですが、保安上の問題もあるため列車がいつ通過するかは知らされませんからね。駅員らは不眠不休で駅舎に詰めることになるそうです」(同)
将軍様の鉄道移動には、多くの国民が振り回されるというわけだ。
(灯倫太郎)