金正恩「愛の不死薬」で忠誠心を鼓舞するも、忍び寄る「変異ウイルス」の懸念

「先進的防疫体制」「感染者ゼロ」と強気の姿勢を見せていた北朝鮮が、初めてCOVID-19による感染者の存在を認めたのは、先月12日のこと。さらに、感染者の爆発的な増加を受け、「やる気がない、怠慢、遅い」などと政府を批判した金正恩総書記は、自ら薬局を視察するなどして「感染防止」をアピールした。16日には金総書記の命令を受けた朝鮮人民軍の軍医部隊が平壌の薬局に入り、24時間態勢で医薬品の供給を始めた。

 朝鮮中央通信は22日、新型コロナへの感染状況について「減少傾向にあり、安定的に抑止、管理されて全般地域で回復者が増加する肯定的な推移を示している」と報道。それが事実であれば、北朝鮮は発生からわずか1カ月足らずで新型コロナ感染者数を減少させたことになる。

「5月26日までに北朝鮮が発表した『発熱者』の数は320万人、うち69人が死亡したと報告されています。北朝鮮の人口は2500万人程度ですから、日本よりも感染規模が大きいにもかかわらず、改善のスピードは恐ろしく速いことになる。たしかに、北朝鮮で感染拡大しているウイルスがオミクロン株なら弱毒化している可能性もありますが、とはいえ北朝鮮ではワクチン接種すら始まっていなかった。そのため韓国政府関係者の中には、『防疫対策の成果を上げなければ自分の身が危ういと考える地方各部門の担当者が、感染者や死者の数を操作して中央に上げている可能性がある』という見方をする者も少なくありません。要は公式発表された数字だけでは判断できないということです」(北朝鮮事情通)

 そんな中、金総書記が国民に対し忠誠心を鼓舞させるために始めたのが、「偉大な人民愛が凝縮された貴重な薬品、愛の不死薬」と呼ばれるワクチンの接種だ。

 ラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、ワクチンの接種対象はまだ国の建設プロジェクトに従事している兵士に限られているものの、接種会場ではこのワクチンが金総書記からの「慈悲深い贈り物」であるとするメッセージが大音量で流れ、「『愛の不死薬』を用意してくれた総書記の偉大さを称賛しています」という人々の声が紹介されている。

「ただ、会場で接種されているワクチン名についての発表はなく、韓国の公共放送KBSが『北朝鮮の航空機が16日に中国・瀋陽の空港で医薬品を積んで北朝鮮に戻った』という消息筋の話を伝えていますが、それがどんなワクチンなのかは不明です。仮に中国製であれば、昨年9月に北が約300万回分の供給を拒否した中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)か、中国医薬集団(シノファーム)のいずれか。有効性が疑問視され途上国でも使われなくなっているので、中国としても在庫処理が出来るので渡りに船かもしれません」(同)

 ただ、WHOが「確認されていない伝染があるところで、常に新しい変異が現れる危険性が高い」と警告するように、新型コロナウィルスはこれまでインドで報告されたデルタ株しかり、南アフリカで発見されたオミクロン株しかり、ワクチン接種率が低い地域で主要変異が発生してきた。そのため一部専門家は、ウィルスが体内に留まる時間が長くなることで変異が発生する確率が上昇する、としているが、まだまだ詳細なメカニズムは不明だ。

 北朝鮮は30日、1日で10万人を超える発熱者が確認されたと発表、再び感染者は増加に転じた。はたして「愛のワクチン」は本当に北朝鮮を救うことができるのか。

(灯倫太郎)

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