北朝鮮の朝鮮中央通信は10日、北朝鮮の金正恩総書記が「韓国を我々の主敵と断定した」と表明したことを報じた。金総書記が軍需工場を現地指導した際の言葉で、「戦争を避ける考えは全くない」「我々の主権と安全を脅かそうとするなら、あらゆる手段を動員して韓国を完全に焦土化する」と強い言葉でハッパをかけたという。
同じく朝鮮中央通信は2日、金正恩総書記の妹・金与正氏の談話を伝えていた。それによると与正氏は、韓国の尹錫悦大統領と文在寅前大統領を比較。融和政策を取っていた文氏を「愚かなふりをして私たちの手を縛り、軍事力育成を制約した。外面の平和意志に引っ張られ、我々は戦力強化のための時間を浪費した」として、「実に扱いにくく、本当の安全保障を分かっている英明で悪知恵が働く人物だった」とからめ手から称えた。一方、対北強硬姿勢をとる尹大統領に対しては、「米国の原子力空母や戦略爆撃機を引き入れたため、我が国の優秀なる軍事力をいかんなく発揮することができる。(尹大統領は)我が国の軍事力の躍進に貢献した特別功労者といえるだろう」と、皮肉たっぷりに褒め殺した。
ところが、6日の朝鮮中央通信が伝えたのは、元日に日本で発生した能登半島地震について、金正恩総書記から岸田首相宛てに見舞いの電報が送られたことだった。その中には、これまで度々使用されてきた「不倶戴天の敵」といった文言が消え、岸田氏に対して「日本国総理大臣岸田首相閣下」という呼称が使われていたことで、日本政府の間にも驚きの声が上がったようだ。
北朝鮮ウォッチャーが語る。
「1995年に発生した阪神・淡路大震災の際、当時の村山富市首相宛てに、北朝鮮の姜成山首相から見舞いのメッセージが届いたという事例はありますが、北朝鮮の最高指導者から日本の首相にメッセージが送られたことはないといいます。かつて、金氏は米国のトランプ前大統領に対しても、『狂った老いぼれ』などと散々卑下していたのが、制裁解除が目の前にちらついた米朝首脳会談前の2018年には手のひらを返したようにトランプ氏を『閣下』と呼んでいます。トランプ氏に送った親書には『卓越した政治的感覚を持つ閣下に直接会いたい』『閣下と直接朝鮮半島非核化問題について話し合うことを希望する』等々、9回にわたり『閣下』というフレーズを使用したといいますからね。つまり、今回の岸田氏への丁寧なメッセージも、日米韓の協力関係になんとかくさびを打ち、外交的孤立を避けたい意図が透けて見えます」
あれだけミサイルを日本海に飛ばしておいて何をかいわんやだが、林芳正官房長官も「金正恩委員長のメッセージには感謝の意を表する」とする一方、「各国首脳からのメッセージへの返信は現時点では行っていない」と、金氏への返信については明言を避けたままだ。
なりふり構わぬ「掌返し」には開いた口が塞がらない。
(灯倫太郎)