「夏の十二番勝負」で王位防衛、叡王奪取に成功し、史上最年少の「10代三冠」を達成した藤井聡太。破竹の勢いは止まらず、竜王戦では目下3連勝と一気呵成に四冠へ王手をかける。初対戦から6連敗と苦杯を舐め続けた天敵・豊島竜王との対戦成績も逆転し、無冠の崖っぷちに追い込んだ若き天才棋士の秘策とは!?
「基本的に、自信がない感じで進めていました。どこから悪くしたのかはわからない‥‥」
10月31日、福島県いわき市で行われた竜王戦第3局の終了後、豊島将之竜王(31)は言葉少なに敗因を語った。
「夏の十二番勝負」として注目された豊島竜王vs藤井聡太三冠(19)の王位・叡王「ダブルタイトル戦」では、豊島竜王が藤井三冠を阻止する「ラスボス」として立ちはだかることが予想された。
しかしフタを開けてみれば、王位戦(4勝1敗)、叡王戦(3勝2敗)と藤井が連勝し、図らずも羽生善治九段(50)が持つ最年少三冠記録「22歳3カ月」を大幅に更新。「19歳1カ月」という史上最年少三冠達成を手助けする結果となったのだ。
王位戦第5局で立会人を務めた深浦康市九段は、藤井三冠の急成長ぶりに感嘆する。
「驚くべきは、藤井三冠の対応の早さです。王位戦第1局を敗戦した時点までは、過去に大逆転負けを喫した豊島竜王に対し、メンタル面で苦手意識のようなものがあったのかもしれない。ところが第2、3局と内容的には押されながらも結果を残したことで、その意識を克服する自信が徐々に芽生えてきたとみています」
豊島竜王に大逆転のトラウマを食らったのは、昨年10月5日の王将戦リーグ。対豊島で5連敗中の藤井に終盤、初勝利の兆しが見えた。ところが残り時間が少なくなったところで、豊島が玉を逃すというまさかの寄せ間違い。その後、お互いに1分将棋となる死闘の末、豊島竜王が大逆転で勝利している。
「この十二番勝負で、藤井三冠は同じ相手と続けて戦う独特の番勝負という形に慣れ、王位、叡王と2つのタイトルをものにした。次の竜王戦は、王位戦前とは正反対に、豊島竜王が藤井さんにどのように対抗できるか、というテーマに変わってしまったのです」(深浦九段)
そして豊島vs藤井の一騎打ちは、10月8日からの「竜王戦」になだれ込むと、ここでも藤井三冠が一気に3連勝し、豊島竜王の息の根を止めるかのように圧倒してみせたのだ。
竜王戦第3局で立会人を務めた屋敷伸之九段が、その激戦を振り返る。
「ダブルタイトル戦前までは、内容的に競っているわりには、豊島竜王に星の偏りがある感じでしたが、今度は藤井三冠の方に星が集まり出している。竜王戦では相掛かりが2局続き、第3局は角替わりから早繰り銀と激しい展開でした。豊島竜王は何もできないわけではないが、気が付くと、最後には藤井三冠がうまくまとめて抜け出す展開の将棋になりました」
お互いの駒を取り合うジリジリとするような中盤。しかし終盤で逆転劇を演じるのは、常に藤井三冠の方だった。藤井三冠はいつ、豊島竜王を逆転したのか─。
*「週刊アサヒ芸能」11月18日号より。(2)につづく