韓国の尹錫悦大統領が1月26日、内乱罪で起訴された。検察当局は、尹氏による昨年12月の非常戒厳発令が「内乱罪」等に該当するとして拘束の延長を求めていたが、裁判所はこれを拒否。検察側としては27日までに尹氏を起訴するか釈放するか決める必要があり今回の起訴に至ったわけだが、韓国における現職大統領の起訴は初めて。「内乱罪」で有罪が下されれば終身刑、または死刑が言い渡される可能性もあり、裁判の行方に注目が集まっている。
一方、現職大統領起訴という前代未聞の事態を受け“政治の空白”が続く中、憲法裁判所が国会による弾劾を妥当と判断した場合、尹氏は罷免され、60日以内に大統領選挙が実施されることになる。外信部記者の話。
「内政手腕が酷評され続けてきた尹大統領ですが、日米韓安保協力や日韓関係改善など、外交・安全保障分野に関しては着実に実績を積み上げてきたことは事実。今後も日米韓でのさらなる連携が期待されていただけに失望の声は大きいのですが、実はロシアとの戦争が長期化するあの国も、今回の尹大統領起訴には相当のショックを受けていると伝えらているんです」
同氏が指す「あの国」とはもちろん、ウクライナのこと。なぜウクライナが大きなショックを受けているのか。
実は、韓国はロシアによるウクライナ侵攻を他の西側諸国同様に非難し、制裁措置にも加わる一方、ウクライナへ「殺傷兵器」を送る米国や欧州各国とは一線を画し、支援物資をあくまで医薬品や戦闘用食糧、防弾ヘルメットなどに留めてきた。ところが昨年6月、北朝鮮を電撃訪問したプーチン大統領が金正恩総書記と「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結。その条約には、「朝鮮半島有事の際には、ロシアがためらうことなく直ちにあらゆる手段を用いて軍事的及びその他の援助を提供する」との文言が明記されていたことが明らかになり、韓国がロシアに対し猛反発していた。
「韓国としては、ウクライナからの再三にわたる武器・兵器提供を断る一方、ロシアに対しても中立的な態度をとってきただけに、両国が締結した新たな同盟は想定外の衝撃だったはずです。韓国では両国の同盟締結を受け、対露経済制裁やNATO軍との軍事協力の強化、さらにはウクライナに対し直接的で段階的な殺傷用兵器供与を検討していたとも伝えられます」(同)
具体的には、まずは防空システムなど防衛用兵器を供与し、その後も露朝が危険水域に進むようであれば、殺傷用兵器供与に移行する可能性があったというのだが、
「武器供与の話がどの程度進んでいたかはわかりませんが、尹大統領による一連の問題を受け政治がストップする中、当然その問題も動かなくなったはず。しかも韓国の次期政権を担うとされる『共に民主党』の李在明代表は、北朝鮮にベッタリだった文在寅元大統領の子飼いだった人物。となれば、韓国が北朝鮮寄りに大きく舵を切ることも考えられ、そうなれば再びウクライナへの殺傷用兵器供与の話も立ち消えになる可能性が高い。情報筋によれば、ゼレンスキー大統領は相当の衝撃を受けているといいます」(同)
ロシアに1万数千人の兵士を派遣しているとされる北朝鮮。戦場では今も北朝鮮兵士とウクライナ軍兵士との戦闘が続いているが、韓国が北朝鮮寄りになびくようなことがあれば、今後の戦況にも大きな変化が生まれる可能性も出てくる。
韓国の情勢とウクライナVSロシアの戦い。そして、尹大統領の運命は…。
(灯倫太郎)