習近平が“犬猿の仲”韓国に急接近する「したたか外交」

 中国の習近平主席と韓国の尹錫悦大統領とが、ペルーで行われたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の際、首脳会談を行ったのは昨年11月15日。両首相による会談は2022年11月にインドネシアで開催されたG20以来、実に2年ぶりとなったが、習主席が先に尹大統領を中国に招待し、尹大統領も習主席の来韓を提案するという、自分が出かけていくのではなく、双方が双方の招待を要請するという異例な形で会談は終了したと言われる。

「習主席が最後に訪韓したのは、朴槿恵政権当時の14年7月。11年ぶりとなることから、関係回復が期待されていたようです」(外報部記者)

 ところが、昨年12月3日の「戒厳令」発令以降のドタバタ劇で尹大統領は職務停止となり、事実上、尹政権が崩壊し約束していた両者による会談も「お流れ」に。しかし政権崩壊を受け、これまで韓国と距離をとってきた中国が俄然、その距離を縮めようと躍起になっているというのだ。

「中国と韓国が国交を樹立したのは、ソビエトの崩壊から8カ月後の1992年の8月。以来、昨年8月で32年が経過し、両国は互いを『戦略的協力パートナー』と位置づけ経済などの関係を強化してきました。ところが、中国の高圧的な態度や外交などを理由に、韓国の若者たちを中心に対中感情が悪化。16年の朴政権下では北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対応するためにTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の配備を決めた韓国に対して中国側が『我々も監視される恐れがある』と猛反発し、中国では韓国製品の不買運動が勃発。さらには中国から韓国への旅行が事実上中止になるなど、両国の関係が一気に冷え込んでいきました」(同)

 とはいえ、次に発足した文在寅政権では、北朝鮮との「太陽政策」もあり、バックにいる中国との関係をこじらせたくないことから、THAADの追加配備はしないなど「3つのノー(NO)」を示し、なんとか和解に努めた。しかし、米国寄りの姿勢をとる尹氏が大統領に就任したことで、THAADの運用を正常化。再びバトルに火が付いたというわけである。

「尹政権の崩壊を受け、次の大統領と目されているのが『反日モンスター』と呼ばれる共に民主党党首の李在明代表ですが、同氏は“文在寅のコピー”とも揶揄される人物。したがって同氏が大統領になれば、韓国が再び北朝鮮に対し太陽政策を取ることは必至で、そうなれば必然的に中国との距離も縮まるでしょう。ただ、これを同盟国であるアメリカがどう受け止めるか。韓国の専門家の間からも懸念の声があがり続けています」(同)

 一方、中国側は次期政権を見据え、昨年12月末、新たな中国大使に57歳の大ベテラン、戴兵氏を韓国大使としてすでに韓国に送り込んでいる。報道によれば同氏は、安徽師範大学で学位取得後、中国外交部入りし、17年からアフリカ司局の局長を務め、その後、国連で副代表、特命全権大使を務めたやり手だという。

「中国が尹大統領とバチバチの関係になる中、昨年7月に前任の中国大使がソウルを離れたあと後任の人選が決まらず、半年間大使がいないという異常事態が続いていた。しかし、昨年末の騒動で事態は一変。一部報道によれば、次期大統領の有力候補、李代表はすでに『自分が大統領になった真っ先に北京を訪問します』と中国側に伝えているのだとか。だからこそ、中国政府は年の押し迫った12月末に急遽、国連大使を韓国大使に移行させたのではないかと報じています。いずれにせよ、今年は中国と韓国との間で、経済や安全保障をめぐる問題で大きな動きが起こることは間違いないでしょう」(同)

 習近平主席の高笑いが聞こえてきそうだ。

(灯倫太郎)

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